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運命なのかは後にして㉑
俺と土師は、〇〇食品(株)を出た。土師は、社に戻ると言った。
「俺は、これから何件か行かないといけないから」
「中條先輩」
「ん? なんだ?」
土師は、鞄から使い捨てマスクを取って俺に差し出した。
「おっ…いいの?」
「まだ持ってるんで」
「そう? サンキュー」俺は、土師から使い捨てマスクを受け取った。
「あっ中條先輩」
「ん……?」
「小賀…先輩に何か言われました?」
「いや、何も」
「そう…ですか」
「俺そろそろ行かねぇと…あっそうだ俺、このまま直帰するから…じゃ、お疲れ」
「お疲れ様です」
俺は、大通りでタクシーを止め乗った。バックミラーに写る土師が動こうとしない。遠くなっていく土師の姿をバックミラー越しに見て俺は目を閉じた。
今は良くても、これから色んなリスクの壁がある。片方だけの想いじゃダメ…それをもう一度よく考えてみた方がいい____
小賀が言った言葉を思い出していた。他人からそれも、土師と同じ立場の人から言われて始めて現実味とその重さを突き付けられた。
そんな事…俺だって分かってる……
漠然とした不安が、心の片隅から広がり始めた。今さえ良ければいいなんの問題もないと、つい最近までの俺だっらそれ以上、深く考えていなかった。幼い頃の記憶の中で感じた何かが怯えさせる。
ああ! 考えんの止め! 止め!
俺には、恋愛なんて向いてないのかもな……年甲斐もなくなに浮かれてんだ。つーか、浮かれてのか…俺……
いつもみたいに軽く考えときゃいだろう…男同士の恋愛なんてそんなもんじゃないのか?
俺は、土師から受け取った使い捨てマスクを強く握りしめていた。
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