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性活指導編『第2話』

「夏樹、大丈夫か?」  声をかけられてハッとし、慌てて机から起き上がった。気だるい身体に鞭打って、何事もなかったようにズボンを穿き直す。  その時、ちょうと授業開始のチャイムが鳴った。 「……先生、授業行かなくていいんですか」 「ああ、俺は次授業ないから。お前は次、英語だったよな?」 「……なんで知ってるんです?」 「そりゃあ、予め調べておいたからさ」 「……は? なんで?」 「お前、英語はかなり得意じゃん? だったら一回くらい授業聞かなくても大丈夫かなと」 「はあっ!? 先生、俺に授業サボらせるつもりだったんですか!?」 「いや、単に授業に集中できなくてもそれほど問題ないかと思って。ほら、セックスの後は腰痛むだろ?」 「っ――……!」  あまりに教師らしからぬ発言に言葉を失った。何言ってるんだ、このエロ教師は! 「そう思うなら昼休みにやらないでくださいよっ!」  市川を突き飛ばし、夏樹は急いで自分の教室に戻った。 (ほんっとにクソ教師だな、あいつ!)  あの補習の日以来、市川は事ある毎に夏樹にちょっかいを出すようになっていた。夏樹がハッキリ「嫌」と言わないせいか、「俺を受け入れてくれた」とポジティブに考えてしまっているようで、二人きりの時は恋人然と振る舞ってくる。勘弁して欲しい。俺はあんたと恋人になった覚えはないぞ。 (でも……)  夏樹はそっと胸に手を当てた。未だに心臓がドキドキしていた。  正直、今の状況は夏樹にとってかなり頭が痛いものだった。  市川に抱かれる前までは、それこそ「あんな体育教師、大嫌い」と思っていたのに、最近はその感情が薄まりつつある。同じ目線で話をしてくれるので、十歳近く年上だけど緊張することはないし、教師ヅラしてくることもないから気は楽だった。もともと性格がサバサバしているせいかあまり意地悪はして来ないし……時々、「そんなに悪い人じゃないかも」と思うことすらある。 (もしかして俺、市川先生に絆されてるんじゃ……?)  例え嫌いな相手でも、毎日のように顔を突き合わせてコミュニケーションを取っていると、少しずつ情が湧いてくると言われる。最初が「嫌い」で始まった分、余計にプラスに転化しやすいのだろう。  しかも男は意外と情に流されやすい生き物で、愛情を向けて来る相手に親しみを覚えるという不思議な特性がある。だからハニートラップ等に簡単に引っかかってしまうのだが、夏樹自身も、市川から与えられる愛情をまんざらでもなく思っていることに薄々気付いていた。心の底から「嫌だ」と思っているなら、教師だろうが年上だろうがキッパリ拒否すればいい。それができないということは……つまり、そういうことだろう。  だけど……。 (ダメなんだよ、こんな関係続けてちゃ……)  夏樹と市川は同じ学校に通う生徒と教師だ。相思相愛の恋人ならいざ知らず、こんな中途半端な関係が許されるはずがない。市川は夏樹のことを好いてくれているみたいだけど、こっちはそんな甘酸っぱい感情を抱いているわけじゃないんだから。……多分。  今日という今日は絶対に話をつけよう……と思いつつ、夏樹は英語の授業を受けた。

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