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性活指導編『第4話』

(先生のバカヤロー!)  お決まりの空き教室に入り、乱暴にドアを閉める。机のひとつに腰かけ、頭を抱えながら溜息をついた。 「どうしよう……」  ……なんだか、全く別れられる気がしない。  市川はあの通り、別れ話をされるだなんて毛ほども考えていないし、これからも夏樹とイチャイチャできると思っている。夏樹が話を切り出したところで冗談だと笑い飛ばす可能性は高いし、まともに取り合ってくれるとは思えなかった。  そしてこれは付き合い始めてわかったことだが、市川は意外と一途なタイプだった。爽やか系イケメンだから遊び人に違いない……と思っていたのに、浮気は一切しないし、連絡もマメだし、金銭面でも太っ腹である。二人で帰った時はよく夕食を奢ってくれるし、なんだかんだで体育の成績も上がった。心情はどうあれ、世話になっている部分は確かに多かった。そんな相手を、すげなく振ってしまうのも気が引ける。  更に言えば、市川と別れるのを躊躇うのにはもっと別の理由もあった。  夏樹には女性経験がない。そういう快感を知らない身体にとって、市川からの刺激はあまりに強すぎたのだ。いきなり後ろの快感を刷り込まれたせいで、いざ抜こうと自分で触っても、上手く処理できなくなってしまったのだ。  それどころか、市川に触れられると自分の意思とは関係なく身体が疼いてしまう。流されちゃダメだとわかっているのに、あの凄まじい快感を身体が期待して、どうしても拒否できなくなる。 (こんな状態で別れたら……)  それこそ、どうしていいかわからなくなりそうだ。自分で欲望を処理できない以上、市川に頼るしかない。そんな状態だから、別れようにも別れられない……。 (全部先生のせいだよ……!)  心は市川に向いていない。でも身体は市川を求めてしまう。心と身体が乖離している状態がこんなにも辛いだなんて知らなかった。いっそ市川先生を好きになれたら楽になれるのに……。 (好きになれたら……?)  今更ながら、ふと思った。自分は一体、市川のどこを嫌っているんだろう。  いきなりあんな風に抱かれたから、反発しているだけなんじゃないか。筋肉馬鹿の変態教師と蔑んでいた相手を、認めたくないだけなんじゃないか。教師と生徒という立場を理由に、彼を拒絶しているだけなんじゃないか……?  だったら……だとしたら、俺の本心は……。 (……あーもう、知るか知るか!)  半ばヤケ気味に、夏樹は机に突っ伏した。  あんな変態教師のせいで悩まなくちゃならないなんて、それだけで腹立たしい。とりあえず今は余計なことは考えないようにしよう。どうせ市川はしばらく戻って来ない。ちょっと時間を置けば、元の冷静な自分になれるはずだ……多分。  そう思った時、急に何者かに後ろから髪を掴まれた。上半身を起こされ、次いで目に布のような物を巻かれてしまう。

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