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夏休み編『第3話』

「ところで夏樹、今日ヒマ?」 「ヒマって……何かするんですか?」 「ああ。一緒に祭り行かないかなと思って。割と規模のデカい祭りが地元であってさ、夜には花火も見られるんだぜ? 今日空いてるなら一緒にどうよ?」 「……!」  初めてデートらしいことに誘われた。今までは二人でどこかへ行くと言っても、せいぜい学校帰りのファミレスくらいで、そういったイベントには参加したことはなかった。  やっと恋人らしいことができる。  内心で嬉しく思いながら、夏樹はいつもの口調で答えた。 「まあ、先生がどうしてもって言うなら付き合ってあげてもいいですけど」 「おっ、じゃあ決まりな! 今から迎えに行くから支度して待ってて」 「え、今から? 祭りは夜からでしょ? 気が早くないですか?」 「いいじゃん。宿題終わりそうなら今から遊びに行っても平気だろ? それに、せっかくだから浴衣着て行きたいじゃん」 「……浴衣? 俺、そんなの持ってないですよ?」 「大丈夫、お前の分はバッチリ用意してあるからさ。夏樹に似合うヤツ、見繕っておいたんだ」  ……だんだん雲行きが怪しくなってきた。 「でも俺、浴衣の着付けなんてできないんですけど」 「それも大丈夫だ。俺がバッチリ着付けてやるから。安心していいぞ」  ……それが逆に不安なのだが。 「わかりましたよ……。家の外で待ってるんで、早く迎えに来てくださいね」 「よし、すぐ行くよ! 髪洗って支度して待っててくれ」 「……支度はしますけど、なんで髪洗わなきゃいけないんですか?」 「良家の子女はデート前には髪洗うもんだぜ、カワイコちゃん」  ゲロを吐きそうなクサい台詞も、今は懐かしく思える。  夏樹は溜息混じりにこう答えた。 「くだらないこと言ってないで、さっさと迎えに来てください」  通話終了のボタンをタッチし、急いで椅子から立ち上がる。  外出用の鞄を掴み、必要最低限の物だけ詰め込んで、夏樹は市川を待った。

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