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夏休み編『第2話』

 市川は変態だが、意外と一途なタイプだ。浮気はしない。もし乗り換えるつもりなら、今の恋人との関係を清算してから、別の人と付き合うだろう。  だとするならば、そろそろ連絡があるはずだ。「別れよう」という連絡が……。 「う……」  ズキン、と胸が痛んで、夏樹は机に突っ伏した。  嫌だ、別れたくない。口には出さないけれど、夏樹だって市川のことは好きだ。それに、童貞より先に処女を喪失してしまった以上、今更女の子と普通の恋愛を繰り広げるのも違和感を覚える。  どうしよう。もし先生から「別れよう」なんて言われちゃったら、俺……。  その時、机に置いていたスマホが突然震え始めた。  びっくりして、夏樹はその場から飛び上がった。急いでディスプレイに目をやった。そこには『変態教師』と書かれていた。 (先生……!?)  慌てて「通話」ボタンをスライドさせる。あまりに慌てていたため、手が滑って「通話終了」のボタンを押しそうになった。 「も、もしもし!?」 「よお、夏樹! 久しぶり。連絡滞っちゃってごめんな」  明るい声を聞いた瞬間、ぱあっと胸が暖かくなった。  ああ、市川先生だ。遠くからでもよく通る、わかりやすい声だ。学校で直接会話する時と変わらない、いつもの声色。ここから察するに、別れ話をするような雰囲気ではない。ちょっとホッとした。 「元気だったか? 夏風邪とかひいてないだろうな?」  声が弾みそうになるのを抑えながら、夏樹はあえて素っ気なく言った。 「ひいてませんよ。夏風邪ひくのは馬鹿って言うでしょ」 「なるほど、じゃあ夏樹はひかないな。あ、宿題は順調?」 「ええ。先生に邪魔されなかったおかげで、もうすぐ全部終わりそうです」 「マジでー? さすが夏樹、優秀だな!」  そうして他愛もない話をしばらく続けた後、市川が話題を変えてきた。

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