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夏休み編『第1話』
夏休みに入った。
インドア派の笹野夏樹 にとっては、実に嬉しい毎日だった。無駄な外出をする必要がなく、涼しい部屋で快適に過ごせる。夏休みの課題は多かったものの、毎日計画的に進めていけばさほど苦労しない。
(不要不急の外出は控えるのが一番だ)
最近の夏はおかしな気候が多く、三十五度以上の猛暑日が続いたり、いきなりゲリラ雷雨に襲われたりと、ロクなことがない。日差しも強いし湿気も高いし、熱中症にならないためにも部屋でおとなしくしているのが一番だ。
「…………」
自分の部屋で机に向かいながら、ふとスマホに目をやる。
(……そういや、市川先生から連絡ないな)
夏休みに入って既に一週間以上は経過している。その間、市川からこれといった連絡は一度も来なかった。
(どうして……)
学校がある間は連絡もマメだったのに。毎日のようにメールして、朝はうるさいモーニングコールで起こされ、寝る前には向こうから「おやすみ」の電話がかかってきていたのに。一週間以上も電話もメールもないなんて、市川らしくない。
そんなに仕事が忙しいんだろうか。
教師は生徒と違って学校が休みでも仕事で出勤しなければならないそうだけど、授業以外にどういう仕事があるのかは全くの謎だ。他の科目ならともかく、体育教師はグラウンドでランニングするくらいしかやることがなさそうなのに。
「先生……」
じっとスマホを見つめる。
連絡は欲しい。かといって自分から連絡してやるのは、なんか負けたような気がする。適当なLINEスタンプをひとつ押してやればいいだけなのに、どうしてもそれができない。自分のこじれた性格が恨めしい。
(でも……こうしてる間に、先生が別の人に乗り換えていたら……)
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