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夏休み編『第5話』
市川のマンションに到着し、夏樹は勝手知ったる動作でエアコンのスイッチを入れた。
クーラーの風を浴びながらソファーに腰を下ろしていると、冷たいものがピタッと頬に当てられた。
びっくりして振り返ったら、市川が背後から爽やかな笑みを向けて来た。手にはスポーツドリンクのペットボトルが握られている。
「ほい。喉乾いただろ? 熱中症には気を付けてな」
「あ……ありがとうございます」
……ちょっと子供っぽいけれど、こういう気遣いができるところも好きだ。
ドリンクのキャップを開けて喉に流し込むと、全身に沁み込んでいくような心地を覚えた。
だんだんクーラーもきいて来て、ホッと一息ついていると、
「じゃ、そろそろ着付けの練習してみるか」
と、市川が声をかけてきた。
着付けってそんなに時間かかるものなのかな……と首を捻ったが、「初めてだし、勝手がわからないこともあるよな」と思い直し、夏樹は素直に市川についていった。
市川の自宅マンションは意外と広く、リビングダイニングの隣に和室が一部屋ついている。浴衣の着付けにはもってこいの部屋だ。
「というわけで、夏樹に似合いそうな浴衣、揃えてみたんだ。どれがいい?」
市川が、着物ハンガーにかかった浴衣を見せつけてくる。金魚が泳いでいるデザインもあれば、朝顔が散りばめられているものもあった。生地も、白や紫や黄色など様々な色が揃えてある。
(こんなに集めてくれたのか……)
ちょっと感動しつつ、夏樹は一着一着目を通していたが、
「……なんか、さっきから派手なデザインが多くないですか?」
男性用の着物ってこんなに派手なものだっただろうか、と首をかしげる。テレビで見たことのある男性の浴衣は、もっとシンプルで柄が少ないものが多かった。
こういう綺麗な柄が入っている浴衣は、女性用という印象が強いのだが……。
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