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夏休み編『第6話』

「まあいいじゃないか。日本の民族衣装に男性用も女性用もないだろ」 「……はあ? そんなわけないでしょ。絶対男性用と女性用分かれてますって」 「大丈夫だって。ほら、洋服だってメンズのシャツを女性が着ることあるじゃん」 「そういう問題じゃないと思うんですけど……」 「そういう問題だろ。あと、夏樹にはこういう柄モノの方が似合うと思った!」 「威張って言わないでください」  なんだか、いいようにごまかされている気がするが、柄モノの浴衣しかないのなら仕方がない。  夏樹は一番シンプルな浴衣を選び、畳の上に置いた。  白地に流水模様が入ってる、涼しげなデザインである。それと緑色の帯を選び、やや遠目で眺めてみた。なんとなくだが、色合い的には違和感のないコーディネートだと思う。 「お? それで決定?」 「はい。……で、これどうやって着るんですか?」 「まずは浴衣用の下着を着るんだよ。というわけで、服脱いでくれ」  言われた通り服を脱いで、パンツ一枚になる。  すると市川はちょっと苦笑してこんなことを言い出した。 「パンツも脱がないとダメだよ。着物はパンツ穿かないのが正式な作法だからな」 「……えっ? パンツもダメなんですか?」 「だから代わりに専用の下着があるじゃん。裾除けと肌着さ」  腰巻きスカートのような薄い布と、丈の短いシャツのようなものを見せつけられる。  それが作法だと言われてしまえば、着付けの知識のない夏樹は従うしかないのだが……。 (だからって、ノーパンってのはちょっと落ち着かないんだけどな……)  チラリと市川を見たら、彼は目で「早く」とせっついてきた。  仕方なく夏樹は市川に背を向け、そっとパンツを脱ぎ去った。既に裸は何度も見られているが、自分から裸になるのは今でも少し恥ずかしい。

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