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夏休み編『第42話*』

 戸惑いつつ市川を見上げると、彼はそっと夏樹に覆い被さり、耳元で囁いてきた。 「なあ、いいだろ? 久しぶりなんだしさ……」 「う……」  休みなしで抱かれるのはさすがに辛い。夏樹は市川ほどの体力はないし、途中でバテて力尽きてしまう可能性もある。  でも……。 (そんな顔で言われたら、断れないじゃん……)  欲望にまみれた目が、官能的に光っていてとても綺麗。全身に程よくついた筋肉がしっとり汗で濡れており、密着していると濃厚なフェロモンが香ってきて、夏樹の官能をも刺激する。  諦めと興奮が入り混じった溜息をつきながら、夏樹は市川の背中に腕を回した。 「……ホント、先生は根っからの変態ですね」 「それを言うなら絶倫じゃないか?」 「俺にとっては、どっちでも同じことです」 「そうか。じゃあ俺は『変態教師』かつ『絶倫王子』ってことだな」 「んっ、あっ……!」  市川が小刻みに最奥を突き始める。  自分で言うなよ……と思ったが、どちらもピッタリ当てはまっているので夏樹としては納得するしかなかった。 (ホントにこの人は名前が多い……)  市川慶喜、真田健介、変態教師、絶倫王子……。彼を表す名前は普通の人より多い。だからと言って彼の人格が変わるわけではないし、これから先も変態っぷりは健在のままだろう。  だけどいつか、夏樹がもう少し大人になったら――自分の身は自分で守れるくらい強くなって、市川にも頼られるような存在になったら、その時は――。 「先生のこと、ちゃんと教えてくださいね……?」 「ん? ああ、もちろん。夏樹が俺と同棲するようになったら最初に話すよ」  同棲前提かよ……と内心で突っ込んだけれど、今はそれでもいいと思える。  彼に愛される幸福を感じながら、夏樹は快感に身を委ねた。

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