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文化祭編『第11話』

 ところどころに解説を入れながら、市川が淡々とお茶を点てていく。近場で買ってきたらしいお饅頭を食べつつ、夏樹は彼の点前に見入った。  サッサッサッと茶筅を動かして抹茶を点て、その茶碗をこちらに出してくれる。 「ほい、できたぞ」 「あ、はい……ありがとうございます」  目の前に出された茶碗の中を覗き込む。綺麗な半月状に水面が残っており、夏樹が想像していたようなモコモコの泡はほとんどなかった。 「先生、これ泡が足りないんじゃないですか?」 「いや、それでいいんだ。うちは水面を泡でモコモコに覆う流派じゃないからさ。というか、一般的に認識されてる泡モコモコの抹茶は裏千家独特の点て方で、あの点て方をしているのは裏千家だけなんだ。うちの流派は、水面を少し残して点てるのが正解」 「えっ? そうなんですか?」  それは初耳だ。抹茶の点て方なんて一種類だけだと思っていた。流派ごとに作法がいろいろ違うのか……。 「へえぇ……。僕もこんな水面の抹茶は初めて見ましたよ」  と、翔太が横からスマホのカメラボタンを連打し始める。確かに、水面が残っている抹茶は資料として貴重だろう。  夏樹は温かいお茶碗を取り、左手の上に乗せた。そこで固まってしまった。 (お茶を飲む時って、茶碗回すんだっけ……?)  でも何回、回せばいいんだろう? 二回? 三回? それともまさかの一回……? 「お茶を飲む時は、茶碗の正面を避けて右横で飲むんだぞ」  と、市川が教えてくれる。 「そのために茶碗を時計回りに四十五度ずつ回すんだ。それで飲み口が右横になるだろ」 「あ、そっか……なるほど」  お茶碗を回すにもそんな意味があったのか。頭の中の電球がピコーンと点灯したような感じだ。単純に形だけ教わるより頭に入りやすい。 (そのうち、お茶も教えてもらおうかな……)

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