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冬休み編『第2話』

(確かに、こんな大荷物で先生の家に行きたくないしね)  よっこらせ、と重くなった鞄を肩にかけ、夏樹は教室を出た。  そして当たり前のように他の生徒に混じって、下駄箱に向かおうとした時。 「おい、笹野」  不意に後ろから呼び止められ、夏樹は足を止めた。振り返ると、そこには自分より幾分背の高い男子生徒がいた。 「……?」  クラスメートではない。見覚えがないのだが……誰だっけ。 「河口朝治(かわぐちあさじ)だよ。お前のひとつ上の先輩だ」 「はあ、そうですか」  だからなんだ、というニュアンスを込めて河口とやらを見上げる。直接関わったことのない先輩が、急に自分に声をかけてきた理由がわからなかった。  河口はこちらに近づきながら言った。 「お前に話があるんだけど、いいか?」 「俺、もう帰るんですけど」 「いいだろ、少しくらい。ちょっとつき合ってくれよ」 「じゃあ、先に要件を言ってくれませんか?」 「言ってもいいけど、ここで言ったらお前が困るんじゃねーかな。というわけで、ついて来てくれ」 「……なんだかわかりませんけど、怪しい話には乗らないことにしてるんです」  失礼します、と横を通り過ぎようとしたら、乱暴に腕を掴まれて耳元でこう囁かれた。 「いいのか? 市川センセとのこと、バラすぞ?」 「えっ……?」  ぎょっとして河口を見上げる。 (どういうこと? まさかこの人、先生とつき合ってること知ってるのか?)  なんで? どうして? 学校内ではなるべく顔を合わせないよう用件はほとんどLINEで済ませているし、一緒に車で帰る時だって人目につかないように細心の注意を払ってきた。疑われることはあっても、決定的な証拠はどこにもないはずだ。  なのに、どうして……。  やや青ざめている夏樹に対し、河口はニヤリと笑った。 「……こんな廊下で話したくないだろ? だからさ、ちょっとつき合ってくれよ」  それは遠回しな脅迫だった。夏樹はやむを得ず、河口に腕を引かれて行った。

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