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冬休み編『第3話』
「……それで、話ってなんですか」
誰もいない屋上に連れてこられて、夏樹は目を細めた。
聞くまでもなく、話の内容はわかっている。
それでもあえて聞いたのは、いきなり本題に入られるのが怖かったからだ。一拍置くことで、緊張している自分の心を落ち着かせたかったからだ。
河口が口を開いた。
「ズバリ聞くけどさ。お前、市川センセとつき合ってるだろ」
「…………」
やはりそうきたか。夏樹は内心で溜息をついた。
こういう疑いは、決定的な証拠を突き付けられない限り、こちらが否定し続けていればごまかせる。翔太はそう言っていた。
だから夏樹も、とことん嘘をつき通そうと思った。
「……つき合ってませんよ。なんでそんなこと聞くんですか」
「へぇ~? マジでつき合ってねぇの? だったらなんで文化祭の時あんなことしてたのかなぁ?」
「えっ……?」
「お前、先生とあの茶室でヤりまくってただろ」
「!?」
なんでそんなこと知ってるんだ。あの茶室には当時、他の生徒は誰もいなかったはずだ。翔太がバラしたとも思えないし、何故……?
(あっ……まさか……!)
途中で微かに聞こえた、枝が割れたような音。あれは河口が出した音だったのではないか。茶室に耳をそばだてているうちに、枝を踏んづけてしまったのではないか。
だとしたら、市川との関係は全部河口にバレているということになる。
河口はニヤニヤ笑いながら、するりと夏樹の背後に回ってきた。
「いいのかなあ? 現役の高校生と教師がそんないかがわしい関係にあるなんてさ。しかも男同士だぞ、男同士。そんなのがバレたら市川センセ、絶対クビになるよ。お前だって進学に響くかもしれない。せっかく成績優秀な生徒で来たのに、いいのかな~?」
うなじからざわざわ鳥肌が立ってくる。冷や汗が吹き出し、手先が細かく震えてきた。
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