133 / 282
冬休み編『第20話』
「おう夏樹、お待たせ」
市川が大量の買い物袋を抱えて戻ってきた。新しい鉢や肥料も購入していたので、かなり重そうだった。
(先生……)
胸が痛い。せっかく俺のためにホームセンターに連れてきてくれたのに、ここで別れなきゃいけないのか。
先生はこんなに俺のことを愛してくれているのに、俺は河口に身体を貸しに行かなきゃいけないのか……。
「……夏樹? どうかしたのか?」
市川が訝しげに様子を窺ってくる。
思わず泣きそうになったが、夏樹はあえて心を鬼にして冷たく口を開いた。
「すいません。俺、ちょっと用ができたんでここで失礼します」
「えっ? 用ってなんの?」
「……先生には関係ないですよ。それじゃ」
「ちょ……おい、夏樹!」
後ろから市川の声が聞こえてきた。
夏樹は駆け足でその場から逃げ出した。目から涙が滲んできたが、気のせいだと思い込むことにした。
(先生、ごめんなさい……)
でも俺は、あなたをクビにしたくないんです……。
***
「遅いじゃねぇか。何してたんだよ」
河口に指定された公園に行ったら、開口一番に文句を言われた。
ムカついたので、夏樹も負けじと唇を尖らせた。
「……俺にだって予定があるんです。いつでも時間の融通が利くとは思わないでくださいよ」
「なんだよ、その態度。センセとの関係、バラしてもいいのか?」
「……何かって言うとすぐそうやって脅してくるところ、嫌いです。そもそも先輩だって大学の推薦狙ってるんでしょ。こんな風に後輩を脅してるってバレたら、それだって危うくなるんじゃないですか?」
そう言ったら、河口にぐっ……と胸ぐらを掴まれた。
「オレを脅そうとはいい度胸だな? そんなことしたらお前だってタダじゃ済まねぇぞ?」
ともだちにシェアしよう!