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春休み編『第2話』

(考えてみれば、最後に抱かれた相手って河口のままなんだよな……)  今更ながら、そのことがものすごく不潔なことに思えてきた。  早く先生に会って関係を修復したい。いや……修復以前に、そもそも夏樹は「別れる」なんて認めていない。こんな無責任な状態で放り投げられるのは納得できなかった。  夏樹は翔太の顔を見上げた。 「この写真がどうかした?」 「いやほら、ここ見てよ」  翔太が袴の背面の写真を拡大する。市川のうなじ辺りが大きくなり、ある模様が見えてきた。六つの円が数珠型に並んでいる模様だった。 「これさ、先生の実家の家紋じゃない? ちゃんとした着物には背中のところに家紋が縫われてるって聞いたんだけど、これを画像検索すれば何かしらヒットするんじゃないかな」 「えっ、家紋……?」  奪うようにスマホを凝視する。並んでいる六つの円の中心には、小さな正方形が描かれていた。 (この円、どこかで見たな……?)  夏樹は急いで机から日本史の資料集を引っ張り出した。  確か……確かこれは……戦国時代の有名武将の家紋だったような……? 「あっ……!」  見つけた。スマホの画像と同じ六つの円。それが二列三行に並んでいる。これが「真田家」の家紋で、有名な六文銭だ。 「そうだ、真田だ!」 「えっ? 何?」 「先生の本名! 真田健介だ! ありがとう翔太、やっと思い出せた!」 「そ、そっか。手掛かりになったならよかったよ」  喜びのあまり翔太の手を握ってぶんぶん振ったら、彼はやや引いたような顔で笑ってくれた。  早速「茶道」、「真田」というキーワードで検索をかけたら、ようやく京都の家元邸がヒットした。有名なところらしく、住所もしっかり書かれている。 「よし、ここだな。じゃあ俺、次の週末に京都行ってくるよ」 「え? 今週末に行くの? でも来週学年末テストあるよ? なっちゃん、勉強しなくて大丈夫?」 「……う。それは……」  そう言えばそうだった。  最近変態教師の実家をリサーチするのに頭がいっぱいで、肝心の勉強が疎かになっていた。三学期の授業はほとんど聞いていなかったと言ってもいいかもしれない。  さすがに今回ばかりは、真面目に勉強しないとヤバイ。

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