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第29話 蜜月

 桜は駆け足で満開を迎え、散りかけている。 暁と坂下は、離ればなれになっていた時間を埋めるかのように、毎晩肌を重ね合っていた。 暁は甘い言葉を囁き、愛撫で蕩ける坂下の肌を貪った。 手や口で欲望を開放し合えば、ひと時は満たされる。 だが、熱が過ぎ去ると、猛烈な渇きが身を焦がすのを感じ始めていた。 腕の中の、安心しきった坂下の寝顔を見つめながら、収まらない欲望をやり過ごす。 (俺ってやっぱり獣…。いや、さかりのついた狂犬か。) 自分を持て余しながら、坂下の髪をなでていると、ふいに坂下が目を開けた。 「悪い。起こしちゃった?」 坂下は首を振る。 「寝たふりしてただけ。」 坂下は暁の首に腕を廻し、唇を寄せた。 暁は舌を差し入れ、坂下の舌をからめとると音を立てて吸い上げた。 「さっきのじゃ足りなかった?」 少し意地悪く問いかける。 恥ずかしがらせて黙らせたい。おとなしく眠ってほしい。さもないと… 「足りない…。」 坂下は暁の手を取ると口元へと導き、指を口に含み舌を這わせた。 「おい……」 これ以上煽るなと暁の理性が叫んでいる。 坂下は涙で潤んだ瞳で暁を見上げた。 唾液を絡めた暁の指を放す。唇が濡れている。 その表情はぞくりとするほど艶めいていた。 「暁…俺、いつまでもあの時のままじゃない。だから、お願いだから、最後までして。最後まで、やめないで。今度こそ、ちゃんと……抱いてほしい。」 暁の手を縋るように握り、絞り出すような声音で訴える。 暁は自分の中で燻っていた埋火が一気に燃え広がるのを感じた。 もう後戻りはできない。 暁は坂下の手を自分の猛り狂う欲望へと導き、握らせる。 「あ…」 熱を持ち堅くそそり立つ性器に、坂下は震える指をそっと這わせた。 細い指からためらいがちに施される愛撫に、暁はゴクリと喉を鳴らした。 暁は坂下の脇腹を撫でて背に手を廻し、ゆっくりと腰から臀部へと指を滑らせた。 肉付きの薄い尻を割り、奥まった場所に触れる。 坂下はびくっと体を震わせた。 指で窄まりを探りながら問いかける。 「こういうことだよな?」 暁の声は欲望でかすれていた。 「大丈夫なのか?」 坂下は小さく頷き、熱に浮かされたような目で暁を見返した。  濡れた音が狭い部屋に響いていた。 暁はローションを手に取り、坂下の中をまさぐる。 坂下は膝を大きく割り開かれ、あられもない姿で秘所をさらしている。 両手で顔を覆い、震えながら暁に身を委ねる。 「んっ、う…っ、あぁ、あっ…」 荒い息からくぐもった喘ぎ声が漏れる。 暁は空いたほうの手を、坂下の顔を覆う手に伸ばした。 上気した目元に涙が浮かんでいる。 「怖い?」 坂下の唇がわななく。 「痛い?気持ち悪い?」 暁がそっと指を抜くと、坂下は小さな声を漏らして首を横に振った。 「ダメ、やめないで。」 全身で暁にしがみつく。 「気持ち…いい、すごく。気持ちよくて…気持ちよくて恥ずかしくておかしくなる。自分が自分じゃなくなりそうで、それが怖くて…」 「バカ、そんな煽られたら、今度こそ泣かれたって拒絶されたって、止められなくなるだろ。」 暁はローションを継ぎ足すと挿入する指を2本、3本と増やす。 抜き差しを繰り返し、しつこくかき乱すと坂下は甘い悲鳴を上げた。 「あきらっ、あぁっ、あ、あっ、もう無理、もう無理っ」 「今更無理って」 「もう、もう待てない…お願い、もう、焦らさないで、早く中に……」 誘うように腰をくねらせ、涙で濡れた目元を紅潮させながら、切実な声で訴える。 暁は指を抜き去ると、濡れて小刻みにひくつく蕾に、張り詰めたペニスを押し当てた。 そのままぐっと腰を進め、狭い肉を押し分けながら挿入する。 「ああっ」 坂下の体が強張り、喉元がのけぞった。 熱い粘膜が暁の欲望を絡めとる。 暁は息を吐いた。 坂下の中がきつく暁を締め付け、すぐにでも達してしまいそうだった。 必死でこらえながら坂下の硬直した体を抱きすくめ、耳や頬を優しくついばむ。 「ゆっくり息吐いて、坂下。息を止めるな。俺を見ろ、俺のこと見て、息吐いて。」 汗の浮いた額に張りついた坂下の前髪を優しく撫で、耳に囁く。 がくがくと震える坂下の体が少しずつ弛緩するまで、肌を密着させ、動かずにじっと待った。 「全部、挿入った。」 「あ…うそ……。」 苦痛や恐怖の色は浮かべていない。 それでも眦から溢れ出す涙が、暁を不安に駆り立てる。 「痛い?大丈夫か?」 「少し…でも平気。なんかすごい。中に暁の……うそ、おかしくなりそう。ちゃんとひとつになれたんだ……俺、暁と、ちゃんと……。ああ、俺、おれ……あ、暁は……気持ち、いい?」 「ああ、すごく。中、熱くてきつくて、すぐにいきそう。」 舌先で涙をすくい、坂下の唇にキスを落とす。 深く結合するように舌を絡めあうと、塩辛いくちづけは次第に甘くとろけていった。 坂下が小さなうめき声をあげ身をよじる。 暁の手の中で、萎えかけていた坂下の性器が熱を持ち始めた。 「動くぞ。」 「あ、待っ…」 坂下は喘ぎながら暁の肩に抱きつき、脚を暁の腰に絡めた。 部屋の中に、鼻にかかった甘い喘ぎと荒々しい息遣い、そして濡れた粘膜の擦れあう音が響いていた。 本能のままに突き上げたい衝動を必死に抑えながら、暁は緩やかに抽出を繰り返し、中を探る。 ゆっくりと奥まで挿入すると坂下は甘いうめき声をあげ、腰を引くとせつなげに眉を寄せた。 「暁、あきら……」 熱に浮かされたように名前を繰り返しながら、坂下は暁の律動に合わせて腰を揺らし始めた。 坂下の性器はすっかり勃ちあがり、蜜を溢しながらびくびくと震えていた。 「暁、暁っ、もう、もうダメ、もう…あぁ、あっ」 小さな叫びとともに絶頂が訪れ、白濁がとろりとあふれ出す。 同時に坂下の中が激しく収縮し、暁もまた、痺れるような快感にうめき声を漏らしながら精を放った。

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