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第27話
絶対にないと思っていた。
この俺が、あんな男を好きになることなんて絶対にないと思っていたのに……。
「おはようございます。ブラッド」
あの騒動があってから、俺とサトウユウジは、俗に言う恋人同士というものになってしまっていた。
「……はぁ。朝から鬱陶しい」
ダブルベットにも関わらず、俺のすぐ横でキラキラスマイルを向けてくるユウジ。
朝から眩しすぎるその光景は、今ではほぼ毎日の日課と化してしまっていた。
「全く。少しは離れたらどうなんだ。毎日毎日ベタベタと」
「ブラッドって、セックス時は素直なのに。素になるとツンデレですよね」
「朝からぶん殴られたいのか?」
「あはは。すみません」
俺の寮は既に修復を終えている。
戻ろうと思えばいつでも戻れるのだが、結局俺はユウジの寮にそのまま住み続けることになった。
契約でユウジが「一緒に住みましょう」と命令してきたというのもあるが……正直俺も、このままがいいと思っているところもあったのだ。
「はぁ……この俺が、こんな気持ちを抱くことになるなんて思いもしなかったな」
それがきっかけなのかは分からないが、あれから俺自身も知らず知らずに変わっていた。
「おはよう」
「え!?あ、お、おはようございます」
「な、なぁ今、レンフォート様から挨拶してきたよな?」
「う、うん。びっくりした」
名前は知らない学校の奴等は、俺の態度にいつも目を丸くしている。
確かに俺は、今まで他の奴等は全員家畜として扱ってきた。
それが最終的に虐められた原因にもなったと思う。
だが今は、アイツ等に対してイラつきもしなければ恨みもない。
不思議だ。
気持ちに余裕があると言うのか……ずっと満たされたままと言うのか……。
だから、なんとなく貶す気にもなれなかった。
寧ろ、家畜共を自分と同じ魔術師として目を向けるようになっていた。
「ねぇねぇ。最近のレンフォート様、素敵に見えない?」
「分かる分かる。なんか落ち着いたっていうか、色っぽくなったっていうか」
「顔は元々良かったしねぇ~~」
「アタシ、狙っちゃおうかなぁ」
「えぇずるい!!私も」
黄色い声と共に、意味ありげな視線がチラチラコチラを突いてくる。
今まであんだけ俺を嫌っておいて、随分気の変わるのが早い女共だ。
別に俺は、全てが変わったわけではないというのに……。
「オイオイ。随分人気者だな。ブラッド・レンフォート様」
俺の向かい側に座って頬杖をつく男の声は、いつものように嫌みったらしく俺に突っかかってきた。
「なんだ。わざわざそんな事を言いに来たのか?ルイス・アルベルト」
最近よく俺にちょっかいをかけに来るようになったルイス・アルベルトに対し、俺も変わらず棘のある言い方で返す。
俺も嫌いだが、コイツも俺の事は未だ嫌いらしい。
なのに、毎日毎日ユウジのように鬱陶しく俺に構ってくる。
謎だ。
嫌いなら話しかけて来なければいいものを。
まぁ別に、不思議と嫌な気分にはならないが……。
「あぁそうそう。あそこでユウジがお前を待ってるみたいだぞ」
「そうか。わざわざ報告ご苦労」
「因みに、さっきの女子共の会話は全て聞こえていたらしい」
嫌な予感がしてユウジの方を見ると、案の定不穏な空気を漂わせながら、ニコニコと不気味に笑っていた。
「……そういうことは早く言え。この家畜」
でも、こういう報告はいつも助かっている。
「あ、逃げた」
即座に席を立ち、俺は逃げるように窓から飛び降りた。
地面に到達するまで後三秒。俺は魔力を足全体に集中させ、着地体制に入る。
そしてユウジに追いつかれる前に、全力で走って逃げる。
というのが俺の頭の中での流れだったが、その考えは叶わず。着地する前に俺は抱えられ、呆気なく捕まってしまった。
「今回も、僕の勝ちですね」
「チッ。わざわざこんなことで魔法を使ってくるな。他の奴等にバレるだろうが」
「いや、魔法使わないと僕が死んじゃいますよ?それに、いずれ僕の存在は皆にも知らせるつもりですから!!魔法使いは危険な存在じゃないって、僕達二人で伝えていくために」
「全く。随分と調子づくようになったな。貴様は」
「はい!!調子乗っちゃってます。だってこれからも、貴方の側に居られるのですから」
そう言うと、未だお姫様抱っこで抱える俺に、ユウジはそっと口づけをした。
「……恥ずかしい奴だ」
コイツと出会って、俺は変われた。
もう一人じゃない。
やっと信頼できる相手が出来たんだ。
「二度と手放すなと、俺に契約させろ。ユウジ」
ユウジの柔らかな頬を撫でながら、俺は初めて自分から命令を求めた。
「……『二度と僕から離れてはいけません』『ずっと僕を愛してください』ブラッド」
「あぁ、その命令だけは絶対に破らない。レンフォート家に誓って」
赤々と輝く胸の刻印に、ソッと手を当てる。
これで俺は二度とユウジから離れないだろう。
だがそれでいい。繋ぎ止められる感覚は悪くない。
「さて。そろそろ降ろしてくれないか?ユウジ。誰かに見られたらどうする」
「まだ駄目ですよ?今からさっきの女子達に、貴方は僕のモノだと見せつけに行くので」
「ちょっと待て。止めろ」
「『僕から離れてはいけません』って命令しましたよね?ブラッド」
「貴様ーー!!やはり今のは取り消せーー!!」
お姫様抱っこをされたまま離れられない俺を、ユウジは鼻歌を歌いながらルンルン気分で教室へと向かっていった。
あぁ……やはり契約だけは、どうにかして解除しなければ……。
俺はそう胸に誓ったのであった。
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