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ラナの街

この世界は大きく分けて10の国がある。その中でも一際広く、多くの民を持ち、栄えた国、ランドール王国。 数十年前までは各国間で頻繁に起こっていた戦争も、ランドールによる圧倒的勝利により今では同盟国という形で不戦の時が保たれていた。 「レジナルド、広い世界を見ておいで」 ランドール王国の東にある街、ラナ。辺りを山に囲まれたラナの街は鉱山資源に恵まれており、その加工品による装飾品が名物である。ラナ産の装飾品はランドール王国だけでなく、隣国間でも取引が盛んに行われていた。 「オヤジ、部屋空いてるか?」 商人が多く行き交うラナの街には多くの宿屋がある。その中でも、特に高くもなく、安くもない、平均的な価格の宿屋に現れた男。背に背負った荷物の多さやその身なりから、珍しくはない、旅人のようだ。その2m近い身長と、腰に下げられた剣を除けば。 「兄ちゃん運がいいな!一部屋空いてるよ!」 「お、ラッキー」 価格帯のお手ごろさだけではなく、料理の美味さでとても人気だという情報を商人に聞き、男はこの宿屋を訪れていた。 「それにしても兄ちゃん旅人だろ?そんな剣をぶら下げてるなんて珍しいな」 「あぁこれか。今日は宿にありつけたが、普段は野宿も多いんだ。これは護身用さ」 「野宿か!この辺は比較的少ないが、北の方には獣の被害がよく出るからな〜っ」 ラナは比較的大きな街で栄えていることもあり、周囲の山道も整備され人通りも多い。そのため山を住処にする獣は少なかった。だが、少し人の住む街から離れてしまえばそういった獣達が多く住んでいる。 宿屋のオヤジに案内された部屋は、ベッドと机だけが備え付けられたシンプルな部屋だった。トイレは共有、風呂も大浴場を使うようだ。この価格帯の宿なら一般的なつくりだろう。 「ふぅ〜、久々のベッドはいいな」 背負っていた荷物を適当に床に下ろし、ベッドへとダイブする。ラナへ着くまでの間、約一週間も野宿生活をしていた男にとって、ふかふかのベッドの心地良さは相当のものだった。 「王都を出て二ヶ月経つってのにまだランドール国内か。広いな、この国は」 この男、レジナルド・アバークロンビーはランドール王国の王都ランドニアの出身であった。そのランドニアを出発したのが約二ヶ月前。色々な街を見て周りながらの旅とはいえ、まだ王国の半分も進んではいなかった。 「まだまだ先は長い」 レジナルドの旅の目的はランドール国内だけでなくその周り、残り9つある国にも足を運ぶ可能性があった。これはなかなかの長旅になりそうだ。そう思いつつ、ぼんやりと天井を眺めるレジナルド。 しばらくただぼんやりと天井を眺めていたが、ふと思い立ったようにベッドから起き上がった。若干腹も減ってきているが、それよりも先にやりたいことがある。 適当に床に転がしていた荷物の中から必要なものを引っ張り出し、向かった先は大浴場。 旅の間、川や湖を見つけるたびに水浴びはしていたが野宿をしていたこの一週間、勿論湯に浸かることは出来ていない。 「やっぱたまには湯船が恋しくなるよな」 そう少しうきうきした足取りで向かった大浴場は宿屋の地下にあった。近くに湧いている源泉を地下を通して街中に引いているのだ。 「こらルゥ!また髪びしょびしょじゃないかっ」 大浴場からレジナルドと入れ替わるように出てきたのは、眠そうなとろんとした目を擦りながら歩く白髪が特徴的な男と、褐色の肌をした2mを越える大男。大男が言ったように前を歩く白髪の男の髪からは拭いたのかさえ怪しいくらい、大量の水が滴り落ちていた。 「ったく。濡れたままで後から寒いって言い出すのはお前なんだぞ」 「ん〜」 そう言い大男は持っていたタオルでびしょ濡れの頭をわしゃわしゃと豪快に拭き始めた。 (兄弟・・・ではないか) その行動が年の離れた弟の面倒を見る兄のような二人のやり取りだが、見た目の雰囲気から血の繋がりは感じられなかった。 兄弟こそいないが小さい頃から兄弟のように育った弟のような存在のいるレジナルドは、なんだか懐かしいような気持ちで二人のやり取りを見ていた。 (ま、ランスにあんなことしたことないけどな) しばらく顔を見ていないその存在は、年下だと言うのに昔から真面目でしっかり者だった。なのでああやって頭を拭いてやる必要も無かったのだ。 それにしても不思議な雰囲気のある二人組だった。白髪の男はチラッと見えた瞳は赤く、北の方に住む雪うさぎのような色合いも珍しかったが、その顔の造形が彫刻のように綺麗に整っていたのだ。そしてもう一人の大男も、その身長の高さにも驚いたが服の上からでも分かる隆起した筋肉。なかなかお目にかかれないような立派な肉体を持っていた。 アンバランスな二人組の去った後の大浴場は、時間も早かったからか他に人は居らず貸し切り状態であった。さっと全身を洗い、お待ちかねの湯船へと浸かるレジナルド。 「っん゛あ゛ぁぁぁぁ〜」 少し熱めの湯が旅で疲れていた身体を解してくれる。含まれる成分のせいか、若干とろみのあるお湯が日に焼け乾燥気味だった肌まで潤わす。

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