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温かい食事
「美味いな!」
目の前のテーブルを埋め尽くすように置かれた皿の上には、山盛りの料理。鶏肉を香草と一緒に炒めたものや、具沢山のスープ、甘辛く煮詰められた肉団子の中にはとろりと蕩けるチーズが入っていた。
「だろ!飯の美味さがうちの売りだからな!!」
「この料理も追加でくれ」
更に追加の注文をするレジナルドに、宿屋のオヤジは嬉しそうにニッと大きく口を開けて笑う。
「今日はよく食う客ばっかで厨房は大忙しだぜ!」
そう言って厨房の方へと戻っていくオヤジの後ろ姿は言葉とは裏腹に楽しそうである。
そしてレジナルドは食堂の奥のテーブルに座る二人へと視線を移した。二人掛けのレジナルドのテーブルより大きな四人掛けのそれは、これまた大量の皿で埋め尽くされている。どこか既視感を覚える光景だ。
「タグ!野菜はいらない!」
「そう言うなルゥ、たまには食ってみろよ」
肉料理ばかりを食べる白髪の男の皿に芽キャベツのガーリック炒めを乗せる大男。大浴場ですれ違った二人組であった。豪快な一口で料理を平らげる大男は、まあイメージ通りである。が、細身に見える白髪の男の前からも次々と料理が消えていく。そのスピードは何か魔法でも使っているのかと思う程の早さであった。
周りにいる他の客も二人の姿は目につくようで、やたらと視線を集めていた。そんな光景を眺めつつレジナルドも自分の目の前の料理を食べ進めていく。
(今日は風呂と美味い飯にありつけて良い日だ。おまけに今日の寝床には天井も柔らかいベッドまである)
旅を始める二ヶ月前までは当たり前だったそれらのことが、今では一つ一つ身に染みる。
(ま、もう一つ贅沢を言えば旅の仲間が欲しいなぁ・・・)
レジナルドは旅をする前はある部隊に所属していたため、大人数での集団生活をしていた。そのため朝から晩まで賑やかな毎日を送っていたのだ。そんな環境だったからか、レジナルドは人と話すのが好きだった。しかし、旅をし始めてからというもの、今日のように街にくれば人と言葉を交わすこともあるが、山を進んでいる時はそんな相手もいない。
仲間と共に食事を楽しむ客が周りに何組もいるせいか、余計に一人旅が寂しく思えた。
そもそも、この旅には目指すべき明確な目的地がない。情報を集めつつ少しずつ進んでいくしかないのだ。いつ終わるかも、終わるかもわからない旅だ。出来ればそれを共にする連れが欲しい。
そんなことを考えているレジナルドにこっそりと視線を送る者達がいた。
「ルゥ、あいつそうか?」
「多分。でもちょっと薄いな。半分なのかも」
それだけを言うと再び目の前の肉を口に頬張る白髪の男。ルゥと呼ばれる彼の本名はルーファス・バートレット。整った顔のせいで大人びて見えるが、口いっぱいに肉を詰め込んだ姿は何処と無く幼さがある。
そしてそんなルゥの口元に溢れた肉汁を呆れながらも拭ってやっている大男はダグ・ブライアーズ。食べることに夢中で会話を続ける気配がないルゥの姿に溜め息を吐いて、自分も食事を再開する。
この二人もある目的のために故郷を離れて旅をしていた。
食事を終えた二人は部屋へと戻った。二人部屋だが、如何せん一人は2mを越えた大男。若干通常より部屋が狭く感じるのは仕方がないだろう。
「で、どうするんだ?」
腹が満たされベッドに転がり眠そうにするルゥに向かってダグが問う。辛うじて目は開いているが、あと少しで瞼がくっつきそうである。
「・・・様子見。あれはまだ、目覚めてない」
「まあ、半分なら目覚めない可能性もあるからな」
「ん。それならそれでいい・・・」
食欲が満たされたら次は睡眠。ギリギリで開いていた瞼は完全に閉ざされ、特徴的な赤い瞳は奥へとしまい込まれた。数秒後にはベッドに仰向けに倒れ込んだままの状態で、すぅすぅと静かな寝息まで聞こえてくる。
「ったく、図体は成長しても中身はまだ赤ん坊だな」
慣れた手つきで服を脱がし、投げ出された手足をベッドに収める。上から毛布を二重に掛けてやれば、大人しく体を丸めて深い眠りにつく。これはもう朝まで起きないだろう。
「様子見って言っても放ってはおけないよな」
二人が食堂をあとにした際、レジナルドはまだ食事をしていた。時間もそこまで経っていないため、まだその場にいるだろう。そう考えたダグは眠るルゥの頭を軽く一撫でしてから再び部屋を出た。
「ちょっくら寝坊助の王様に変わってお兄さんが情報収集してきてやろう」
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