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滅びた種族

食事を終えたレジナルドは宿屋のすぐ近くにある酒屋へと来ていた。ここには街の住人から旅人、商人が集まると聞いたからだ。旅の行き先を決めるためにも情報が欲しかった。 店に入って店内を見渡すと、なるほど賑わっている。その中で商人の集まりと思わしき三人組を発見し近づく。だいぶ酒が進んでいるらしく、陽気に笑いながら会話を楽しんでいる。 「隣いいかい?」 急に声を掛けたレジナルドを三人は一瞬驚いたような表情で見たが、すぐにまた笑顔に変わり陽気に話しかけてきた。 「お!いいよいいよ!」 「旅人かい?いい身体してるな兄ちゃん!」 赤い顔で豪快に笑いながら席を進めてくる男達。なかなか気のいい男達のようでわざわざ近くにあった椅子まで持ってきてくれた。しかし、椅子は元々四つあったため、新たに持ってきた椅子を含めると一人分余る。 不思議に思ったレジナルドが声をかけようとした時、男達の一人がレジナルドの後ろへと手招きをした。 「そこの兄ちゃんも一人ならこっちに交ざりな!デカくて立ったままじゃ邪魔だよ!」 「違いねぇ!!」 「ガハハっ」 一人だと思っていたレジナルドの後ろにはいつの間にか、同じ宿に泊まるダグが立っていたのだ。 「悪いな。連れが寝ちまって暇なもんで飲みに来たんだ。お言葉に甘えて俺も混ざらせて貰うよ」 とりあえず酒を頼み五人で乾杯をする。散々飲んでいるであろうに、一杯目のレジナルド達と同じようにごくごくとジョッキを傾ける三人は相当の酒好きなのだろう。 「兄ちゃん達は知り合いかい?」 「丁度同じ宿屋に泊まってるんだ」 「あそこの飯は美味いだろう!!」 「ああ、最高だった」 三人は予想通り商人なようで、ラナの街にも度々訪れているらしい。男達はラナの街に来たならあの店には行ったのか、どこどこの店にはいい品が揃っている、あの店は高いからやめておけなど次から次へと会話がテンポよく進んでいく。 「旅人ってなら次はどこに行くとか決めてるのかい?」 男の一人、口ひげが特徴的なマーティンがレジナルドとダグの二人に尋ねる。 「俺は連れの気分次第なんだ。寒くなってきたから南へ向かう、とか、東の空が綺麗だから東に行く、とかほんと気まぐれで」 「なかなか自由な旅だな!」 「もしかして連れは女か?そんな気まぐれに付き合ってるなんて!」 「残念ながら手のかかる弟みたいな男だよ」 「そりゃ大変だ!」 ダグとルーファスの二人の関係は不思議である。年齢はダグの方がだいぶ上らしく、手のかかる弟というのは事実のようだが、物事の決定権はルーファスにあるのだ。 「レジナルドは次の目的地は決まっているのか?」 ダグに聞かれレジナルドは口をつけていたジョッキを机に置いた。 「俺は獣人の里を探しているんだ」 レジナルドの旅の目的、それは獣人の里を探すことだった。 「獣人ってあの、人でありながら獣の力を持つっていうあれか」 「そうだ」 獣人とは人であり、獣である種族。見た目はほとんど普通の人間と変わらないが、その能力は桁違いだ。人間の足で三日かかる距離を半日で駆け抜け、石の壁を素手で打ち砕き、断崖絶壁からも無傷で飛び降りるという。 その能力の高さで昔、まだ世界が戦争に溢れていた時代は獣人をどれだけ軍に取り込めるかで勝敗が決まるとまでされた。 「でもよ、70年前の大戦で獣人の王が死んでから獣人族は滅びたって話じゃないか?」 70年前の大戦とは、ランドール王国が大勝し今の地位を築くに至った歴史上でも最も激しいとされた戦いである。長く続いた戦いの中で当時ランドール軍として先頭で闘い続けた獣人の王は、いくら優れた身体能力を持っていたとはいえ、度重なる怪我と高齢だったこともあり終戦と共に命を落とした。 元々獣人というものは自由な種族で、自らの王にしか従わない。しかしその忠誠心はどんな絆よりも強く、王に従うことはこれ以上ない程の幸せと誇りがあるという。そんな王を失った獣人達は悲しみに絶望し、荒れ、いつの間にかこの世から姿を消していた。 それ以来、獣人族は滅びた種族として扱われている。 「そんな獣人の里なんてものは本当にあるのか?」 「わからない・・・でも、獣人達は今も何処かで生きているはずだ」 「そうなのかい?」 獣人に会ったことがある訳では無い。だが、何故かレジナルドには獣人達が滅びてはいないという、強い自信があった。 その後も他愛もない話で盛り上がり、気付けば深夜。そろそろお開きにということになり、男達は酒場をあとにした。 欲しい情報は集まらなかったが、レジナルドはかなり満たされた気持ちだった。それは、久々に誰かと楽しい時間を共にする事が出来たからだ。王都にいた時の賑やかな日々を思い出すことが出来た。 「やっぱ誰かと過ごす時間はいいな」 「確かに、随分楽しそうにしていたな」 「そりゃ普段は孤独な一人旅だからなぁ〜」 同じ宿のためレジナルドとダグは共に帰路についていた。浴びる程酒を飲んだ後とは思えない程に、二人の足取りはしっかりしている。 「本当は旅の連れがいればなとも思うんだが、目的が目的だからな。なかなかついてくるような物好きはいない」 滅びたとされている種族の里を探したいという人間はそうそういない。その事はレジナルド自身もわかっていた。 「レジナルド、お前はなんで獣人の里に行きたいんだ?」 なぜ獣人の里を探しているのか。それは酒場にいた時からずっとダグが気になっていた質問であった。

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