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獣人の里

「・・・俺は元々王都で、まあ大きな軍に所属してたんだ」 「それでそんなにガタイがいいのか」 「ダグには負けるさ」 毎日の訓練の成果で確かに身体は鍛え上げられている。元々体格が良かったこともあり、軍の中でもレジナルドはかなりの腕を持っていた。 「俺には親が居なくてな、そん時の上司?に育てられたようなもんなんだ。で、育てて貰った恩もあるし、何より戦うことは俺に合ってたから軍に居ること自体は何も疑問も問題もなかった」 詳しいことはわからないが、レジナルドは物心つく頃には育ての親の元にいた。知っているのは本当の両親は亡くなっていること。そして、知人であった育ての親の元に引き取られたこと。 育ての親はとても良い人でレジナルドは何不自由することなく成長した。強要された訳でなく、好きだから身体を鍛え、強くなったから軍に入った。そこで活躍することで育ての親は喜んでくれたし、レジナルドが功績を挙げれば、それは上司である育ての親への恩返しにもなった。 「気のいい仲間もいたし、毎日楽しかったよ。でも、ずっと居心地が悪かった」 いや、少し違うかもしれない。居心地が悪いというよりも、自分が本来居るべき所はここではない。そう、漠然と心の何処かで感じ続けていた。 「18年前、俺が6歳の時に朝目が覚めたら急に、なんで俺はここにいるんだって、お前がいるべきはそこじゃないだろって想いが頭に流れ込んできた」 「18年前・・・」 「変な話だろ?前日までは何の違和感も無くそこで暮らしてたのに、次の日にはそんな事を思うなんて」 レジナルドの言葉をダグはただ黙って聞いていた。しかしその目は真剣で、その目を見てレジナルドは話の続きをすることにした。 「俺の居場所がそこではないなら、何処なんだってそこからずっと考えてたんだ。で、そこで獣人達の話を聞いた」 「獣人の?」 「そう」 昔世界には獣人という種族がいた。どんな生き物よりも仲間との繋がりを大切にし、共に居るだけで幸せを感じる。そして獣人達にはどんなものにも変え難い絶対的な存在、王がいる。王がいれば最高の幸せを感じ、王がいる所が彼らの居場所になる。誰も疑うことのない事実として、その関係が成り立っているというのだ。 その話を初めて聞いた時、獣人という種族に酷く憧れた。 「俺は赤ん坊の頃から育ててくれた家族の元にいて、何不自由のない生活をさせてもらっているのにそこを居場所だと思えない」 その事が、家族に申し訳なく、しかしその想いをいくら捨てようとしても捨てることは出来なかった。自分が獣人達の様に家族を大切に、その存在に幸せを感じることが出来ればどれだけ良かったか。そう、少年時代のレジナルドは思った。 「それがなんで獣人の里を探すことになったんだ?」 「・・・獣人に会えば、獣人達の感覚に触れれば、俺もあそこに居場所を感じることが出来るんじゃないか、そう思ったんだよ」 自分にはない感覚、それを自分は知らないからわからないのではないか。それを感じることが出来れば、家族の元に俺の居場所が見つかるのではないか。 「ま、あとは単純にガキの頃に憧れたその種族に会ってみたいっていう、単なる好奇心だ!俺の憧れた存在が滅びたなんて信じたくない。だから生きていると信じる!」 以上が獣人の里を探す理由だ!そうレジナルドは言った。 途中までの真面目な雰囲気から一転、最後には好奇心だと言い張ったその様子にダグは一瞬呆気に取られた。そして気づいたら何故か笑いが込み上げていた。 「ハハハッそうか!好奇心なのか!!」 「そうだ!憧れの存在なんだ、今も何処かで幸せに暮らしていて欲しいだろ」 「そうだな!」 どの理由も全てが本心なのだろう。言葉が真っ直ぐに心に届く。そしてそれは協力してやりたい、そうダグに思わせるには十分な理由だった。 一頻り笑い終わる頃には二人は宿屋にたどり着いていた。 「じゃあな、おやすみダグ」 「レジナルド」 「ん?」 部屋のドアに手をかけた状態でダグはレジナルドを呼び止めた。 「お前の望み、叶いそうだぞ」 「は?」 「じゃあな、おやすみ」 それだけを言うとダグは部屋の中へと消えていった。 「え?おいっ・・・」 言い逃げされる形でその場に取り残されたレジナルドの言葉は、最後まで発されることは無く口を閉じることになった。今の言葉の意味はなんなのか。尋ねる相手が居なくなってしまったので、もやもやした気持ちを抱えたままレジナルドも自分の部屋へと戻っていった。 「随分機嫌がいいね」 「お!起きてたのか」 布団の中から顔だけを出し、眠そうな赤い瞳が覗いている。器用に身体に巻き付けた布団にすっぽりと収まったその姿は芋虫のようで少しおかしかった。 「ぅわ、酒臭っ」 「あいつ獣人の里を探してるらしいぞ」 「・・・聞こえてたから知ってる」 布団から出る気配のないルゥの頭をくしゃくしゃとダグが撫でるが、漂ってくる酒の匂いにルゥは嫌そうに顔を歪めた。それを気にした様子のないダグはルゥの枕元にドカッと腰を下ろし話を続ける。 「でもやっぱり目覚めてないな」 「まあ、目覚めてたらダグにあんな話しないだろうな・・・で、どうする気?」 「お、今回は俺に決定権をくれるのか?」 好きにして・・・。そう言うと再び目を閉じて寝る体勢にはいってしまったルゥ。どうやら会話はここで終わりのようだ。苦笑しながらもダグはまた頭を軽く撫で、自らも隣のベッドへと入り眠ることにした。

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