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伝わる想い2

「そんな感じで暫く他国から里に出入りが続くんだが、まぁ俺らは普段通りすごしゃいいよな」 「ん」 先刻決まったばかりの里への視察への話をダグが簡単に獣人達へと伝え、ルゥもそれに同意するように頷く。が、ここで黙っている訳にはいかない者が一人居た。 「いやいやちょっと待てよ」 「ん?どうしたんだレジ」 「流石になぁ他国の、しかもいくつかは国王自ら足を運んでくるってからには完全に普段通りってわけにはいかないだろ」 一人、国同士の交流の場での経験値の違うレジは苦笑する。獣人のことを知る為に里を訪れるので、確かに普段通りの姿を見せるのが良いのだろうが、やはり多少の装いは必要だ。ましてや今回里を訪れるのはただの使節団というわけではないのだ。 「王様にその辺で野宿や雑魚寝をさせるわけにも流石にいけないし、多少なり段取りは決めといた方がいい」 「そういうもんかぁ〜?」 誰も正解が分からない為それらの事はレジに任せることになった。こういう時、王宮で暮らしていたレジはとても頼りになる。獣人達は正体を隠して様々な土地で暮らしてはいたが、なかなか歳をとらないその見た目を不審がられない為にも、人と関わり過ぎない一定の距離を保っていた。その為か、どうしても少し感覚のズレが人間との間にあるのだ。 その後、レジを中心に他国を迎えるための準備の割り振りがされ、大まかな段取りが決められた。 準備に取り掛かるのは明日からということになり、今日は舞踏会を無事に終えられたことを祝っての宴会となった。と言っても、酒と騒ぐことが大好きな獣人達は常に何かしら宴会を開くための口実を探している。 「俺達が帰る前から今夜の宴会決まってたな」 レジが言うように実は既に宴会用の料理が出来上がっていることは、里に着く前から漂うその美味しそうな匂いで気が付いていた。もし舞踏会での他国との関係が上手くいっていなかったらどうするつもりだったのかと思うが、王と目に見えない繋がりを持つ獣人達には離れていてもルゥが喜んでいることが何となくではあるが伝わっていた。 「俺の感情筒抜け」 「ルゥも俺達の気持ちわかるのか?」 「匂いで何となくの機嫌と体調がわかるくらいで離れてたらわからない」 ルゥが喜んでいる時は獣人達の心に温かな想いが溢れ、逆に悲しんでいたりするとチクリと胸に違和感を感じる。だがそれは一方通行であり、ルゥには獣人達のその様な感情が直接伝わることはないという。 「王は与える者であって、私達は受け取る者なの。王の力が私達の力になるのと同じよ」 「いくら王という特別な存在でも、俺達全員の感情を直接受けてたら疲れちまうだろ?」 ただでさえ王という獣人達にとって唯一無二の存在であるが故の重圧、責任、期待に羨望など様々な想いを背負っている。そこに一人一人の感情の機微まで感じていては身が休まらない。 「どう感じているのか興味はあるけど」 自分の気持ちがどう伝わっているのか興味はある。話を聞いて想像は出来ても、やはり実際のものとは違うのだろう。 「ルゥはなぁ、先代と比べると感情の起伏がわかりやすいぞ。喜んでいる時は特にな」 「確かにそうね。先王は高齢だったからもあると思うけど、凪のように穏やかな方だったわ」 70年前に亡くなった先王は享年425年、人間でいえば100歳を超えている。もうすぐ19歳になる、人間で言ってもまだ未成年であるルゥとは生きた長さが遥かに違う。獣人達からしても成獣になっているとはいえルゥはまだまだ若い。 そういったこともあってか、ルゥの感情は周囲に伝わりやすいようである。 「さ、そろそろ宴会が始まるぞ!今日は祝いだ!たくさん飲んで食べろ!」 獣人達に囲まれ、宴会の準備がされたアミナスの木の下へと連れていかれる。冬の冷たさは消え去り、夜に多少の肌寒さがあるとは言え、アミナスの木の下には心地良い暖かさが広がっている。 「今日は朝まで飲んで騒ぐぞー!」 「無理眠い」 既に飲んでいるかのようにテンションの高い獣人達。朝まで飲むぞと意気込む声にルゥは思わずため息をもらす。 ここ最近ダンスの練習や礼儀作法など舞踏会で必要な最低限のマナーを学ぶ為、苦手な座学もこなした。慣れない公的な場に気疲れもあり、ぶっちゃけ今日はいつもより早く寝るつもりでいたのだ。だが、獣人達の浮かれた気持ちもわかるので仕方ないかと諦めるルゥ。

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