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朝食も食べ終わって、着替えもろもろ終わったので、せめてものお礼に皿洗いと部屋の片付けなどを少ししていこう。そして、ありがとうございました、朝ごはん美味しかったです。と、置き手紙を残していく。 「よし、帰ろ。」 そう思ってドアを開ける。 「えーっとぽすとぽすと」 鍵をいれなきゃいけないので、ポストがある1階に下りる。新聞もとってこなきゃなーとおもいつつ、階段でしたに下がると 「あ。」 「あ…」 「せ、いや」 そこに居たのは聖夜だった。聖夜も朝の新聞を取りにきていたようだった。 「…はよ、つばさ。」 「お、おはよ。」 昨日のこともあって少し気まずい。 「その… 昨日は悪かった。嫌な言い方してごめん…」 きっと昨日の遭遇した時のことを言っているのだろう。 「いや… あんなとこでやるもんじゃなかったよ… 気持ち悪かったよな。ごめん…」 「きっ、気持ち悪くなんてない!ハグなんて男同士でも普通にやるだろ、俺だって翼とならできるってか小さい頃よくやってたし」 翼とならできるという言葉に胸がきゅーんとなる。しかしそこでおかしいことがあることに気づく。 (ん?ハグ???) 「お、お前っいつからみてたんだよ!!!」 「いつって… お前が抱きしめられてて、ほっぺふにふにされてるとこくらいまでだけど… 何言わせんだよ!」 そんな所まで見られてたとは… 見られていたとしてもほっぺふにふにされてる所だと思っていた。恥ずかしすぎてはげそうだ… (そうか…そりゃあイライラもするよな…) 俺だって誰かが自分ちの近くで、ハグしてイチャイチャしていたら腹が立つ。それと同時にやっぱり嫉妬していたわけじゃなかったと少し期待していた自分にも腹が立つ。 「いやほんとごめん… そんな所まで見られていたとは… その透さん、普段からスキンシップ多い人でさ、変な意味じゃないから。」 「そうかぁ?俺には下心まるみえにみえたけどな。」 そう口を尖らせて聖夜が言う。 「あはは… 聖夜は?昨日楽しめた…?」 「………まあ、な」 少し聖夜が暗い顔をしたような気がしたが、すぐ元の笑顔に戻ると 「あ。お前も新聞取りに来たのか?」 「え、あ、うん。あと鍵も返さなくちゃで」 「鍵??」 「うん」 「誰の?」 なんだろう。すごく言いにくい。俺が透さんって言ったって聖夜はなにも思わないのに。なぜか、すごくいいにくい。 「え、えと、透さんの。」 「はあ?なんであのひとの…」 聖夜が固まる。どうやらその意味を理解したようだった。 「…もしかして、昨日泊まったってことか?そいつの家に」 少し棘のある口調にびくっとなる。 「う、うん。まぁ…」 「なんだよそれ。お前らそんな仲良かったっけ。」 「昨日は… 帰りたい気分じゃなくて…」 「ふーん。それで朝まで一緒にいたってことか。」 「っっ…」 (なんでこんなに聖夜は怒ってて俺は怯んでんだ。別にやましいことなんてなにもねえし。ってそもそもやましいことってなんだよ!聖夜相手にそんなこと感じる必要ないだろ。もっと堂々としてればいいじゃねえか!) 「悪いかよ… 俺が誰といようが俺の自由じゃんか。」 「悪いなんていってないだろ。」 「っ、態度がそう言ってんだよ!!お前だって昨日優里ちゃんと楽しんでたんならいいじゃねえかよ!」 そんなこと言うつもりはなかったのに。優里という名前を出してしまって、しまった。と思った。 「は…そこでなんで優里が出てくんの?」 「お、お前だって優里ちゃんと楽しんでたみたいだし 、俺が誰と楽しんでようが俺の勝手だろ。」 つい言い方が冷たくなってしまう。聖夜の気持ちがわならなかった。なんでそこまで透さんを嫌うのか。 そう思っていると聖夜が苦しそうな顔をして言う。 「……俺はっ、心配してるだけだっ!だって急に隣の人とお泊まりまでする仲になってたなんて普通に心配するだろ!そりゃ前はとられたみたいでさみしかったけど今はほんとに心配なんだよ……」 「でも… 確かにお前の交友関係なんて俺が口出ししていい資格なんてないよな、ごめん…」 聖夜の顔を見れば本当に心配してくれていることが分かる。俺はさっきまでの自分の言動があまりにも子供じみていて自分を殴りたくなる。少しの嫉妬で優里ちゃんの名前を出してしまったことも。そしてその優里ちゃんとなにかあったっていうことも。さっきの暗い表情を見ればわかる。 「いや… 俺の方こそ怒鳴ってごめん……」 これ以上聖夜を心配させたくない。かといって、透さんは大事な友人で良き相談相手だ。どうすればいいんだろう。その時俺の頭に、ひとつの案が浮かんだ。 (いや… ほんとにいいのか?それで… もしそれをいって拒絶されでもしたら… ) その時のことを想像し足が竦む。 「ううん、朝から変な言い合いしたな。お互い謝ったしこれでおあいこってことで!」 そう言う聖夜の笑顔をみると、ますます言えない。 「じゃあ、俺、先帰ってるから!」 このまま聖夜をかえしたら、きっと距離が空いてしまうきがした。何故かそんな気がしたんだ。 気づけば聖夜の腕をつかんでいた。 もう後には引けない。 「翼…?」 「俺… ずっと悩んでたことがあるって言っただろ?」 「あ、うん…」 「それを透さんに相談してるってことも…」 「うん…」 「なんで透さんには言えて、聖夜には言えなかったっていうとさ、透さんも似た悩み?みたいなものがあったんだ。」 ごめん。透さん。これを言えばあなたも、ってことがバレてしまうけれど。あとから謝るから許して欲しいです。 「似た、悩み?」 「うん… まあ正確には悩んでるのは俺だけなんだけど」 言わなきゃ。言わなきゃいけないのに、やっぱり怖くてそこから先が言えない。口が震える。怖い。そう思って黙りこくってしまう。 「翼… 大丈夫だよ、大丈夫だから。ゆっくりでいいよ。俺ちゃんと聞いてるから。」 そう言って聖夜は俺の手をぎゅっと握ってくれる。俺が怖がっていることに気づいてくれたのだろう。 好きだ。そんな優しい聖夜が。どうしようもなく。 言わなきゃ。聖夜への愛しさがこみ上げてくる。 そして覚悟を決めて聖夜にこう告げる。 「俺、ゲイなんだ。」

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