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聖夜視点
翼と太宰という男が抱き合っている。俺はそれを呆然とした目で見ていた。俺は、ちょうど泊まりにくる優里を迎えに行って戻ってきたところだった。
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あれはなんだったのだろう。あの二人を見た瞬間、俺の中の何かがプツンっと切れた。そのせいで酷い言い方をしてしまった。あの時の翼の顔。とても傷ついた顔をしていた。最近の翼は元気がなかったような気がして心配していたのに、俺が、その顔をさせてしまった。最低だ。最近の俺は、翼を前にすると制御がきかなくなる。翼のことを傷つけたくないのに。守りたいのに。あの男とはどういう関係なんだろう。翼、もしかして狙われてるんじゃないのか?あいつは流されやすいから余計心配になる。知りたい。聞きたい。あの男とどうしてそんなに仲がいいのか。問い詰めたい。でもその資格なんて俺にはない。
そんなことをぐるぐると考えていると
「せ、い、や、くん… せいやくん!!!」
はっと優里の俺を呼ぶ声で我に返る。
「あっ、ごめん。ちょっと考え事してて…」
「聖夜くん、さっきからずっとそうだよ… 体調悪いんじゃない?大丈夫?」
優里がとても心配そうな顔をしてこちらを見てくる。
(やっぱりかわいいな…)
そんな優里の頬に手をそえる。そうだ。今目の前にいるのは優里だ。翼じゃない。いまは目の前の彼女のことだけ考えてればいい。
「優里… いい?」
そういって彼女の形のよい唇に軽くチュッとキスをする。
「う、うん… 私もそのつもりできたから…」
優里は顔を赤く染める。耳まで赤くなっている彼女は、やっぱり可愛くてとても愛おしいと思う。
耳を触ろうとすると、頭のなかにあの時のことがフラッシュバックしてきた。
『んんぁっ、せいやぁっ』
赤い顔で目を潤ませながらこっちを見てくる翼が、目の前の優里と重なる。
「っっっ!!」
とっさに優里の肩を掴んで押しのける。
「せ、いやくん?」
「ご、ごめん… 今日やっぱやめとこう… 」
最低だ。他の人のことを考えるなんて。しかもよりによって翼だ。優里にも翼にも申し訳ない。
「な、なんで…? 私もその気だったって言ったのに引いた…?」
そう言う優里の目には涙が溜まっていて今にも溢れそうだった。
「ちがうっ!!!優里は悪くない!!ちょっと体調悪いっていうか…」
焦ってなんとか誤魔化す。
「なにそれ… 聖夜くんって嘘つく時目が泳ぐんだよ。」
(そ、そうだったのか?!!)
「それに。柊木くんが関係してるんじゃないの??あの子にさっき会ってから明らかに様子がおかしいもの。」
優里の鋭さにぎくっとなる。
「翼はっ、関係ないだろ…」
「でもさっきあの二人見た時、聖夜くんすっごい怖い顔してた。私はあんな表情見たことなかったよ。柊木くんにしか見せない表情がきっとあるんだろうなとは思ってたけど…… ねえ聖夜くん、私といる時翼くんの話ばっかりしてるの分かってる?それもすっごい笑顔で… 私は付き合う前、幼馴染のことすっごい大事に思ってるんだなって、いいなって思ってた。だけど今は… 」
肩を震わせながらそういう彼女を見て、俺はどうしていいのか分からなかった。否定もできない。だけど、俺が好きなのは優里なんだ。それは間違いない。さっきもなぜ翼が出てきたのかわからない。
俺が黙っていると優里が言った。
「ねえ聖夜くん、私と翼くん。どっちが大事なの?」
翼と優里どっちが大事?そんなの比べたこともなかった。どっちも大事だ。小さい頃から兄弟のように仲の良い翼と、俺の初恋で、俺の心を癒してくれる優里。
選べるわけがない。そんなの……
「そんなの、比べるものじゃないだろ…」
パンっ
その言葉は口に出ていたらしく、その瞬間優里に頬を叩かれる。
「いっっ…」
「そこは嘘でも私って言ってよ!!!」
そう言った優里の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ゆ、ゆうり」
「もういい。帰る。」
「え、ちょっと!!」
優里はそのまま荷物をまとめて出ていってしまった。当たり前だ。俺はクソ野郎だ。大切な彼女を傷つけた。
(なんで… こうも上手くいかないんだろうな)
俺もちゃんと好きなはずなのに。好き同士で付き合ったはずなのに。恋愛ってこんなに面倒なものなのか…
ついそう思ってしまった。女の子はどうも扱いにくい。機嫌を損ねるとなかなか戻らないし、女心っていうのもよくわからない。でもその分翼は…
(あ、俺… また……)
比べても意味ないとさっきあれだけ自分で言っていたのになんてざまだ。最近考える。翼は俺にとってなんなんだろう。優里にも言われるくらいだ。翼の存在は、俺の中でとてつもなく大きい。大切で大事な幼馴染。それは自信をもっていえる。だったら?俺があいつに持ってる感情はなんだ?他のやつと仲良くなっただけで嫉妬してしまう、執着してしまう。
翼のことは好きだ。でもそれは幼馴染としてだ。優里としていることをあいつとしようと考えたことはない。だってそもそも男だ。俺は女の子が好きで優里が好き。でもあの時俺は確かに翼に欲情した。なんで?どっからどう見ても男のあいつに俺はなんで欲情したのだろう。
ぱっと思いつきで、ヤホー知恵袋を探ってみる。
するとある男子高校生が投稿した質問が目に止まった。
『俺は女の子が好きです。でもある男友達が他のやつと仲良くしてると嫉妬してしまいます。たまに変な目で見てしまったこともあります。俺はこの男友達のことが好きなんでしょうか?恋愛的な意味で。』
俺と似ている気がした。回答欄も見てみる。
『それは恋です。』
『ノンケはこっち側に来ない方がいいよ。』
『んー勘違いじゃない?仲いいヤツが他のやつと仲良くしてたら腹立つことよくあるっしょ』
色んなコメントがあるなか、あるコメントが俺の目に止まった。
『抱けるか(抱かれる)、抱けないか(抱かれたくない)の2択。抱かれたいとか抱けるならそれはもう好きでしょ。』
……………男同士でセックスってできんの?
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