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第1話

「ふぁ…あ〜ん…」 「え?真咲(まさき)今泣く?ちょっと待って、もうすぐ帰るから…」 色素の薄い色の髪をした細身のスーツの男がまだオムツを付けている小さな子供を抱き抱え、カートを押していた。 ファンシーな絵が描かれた彼に不釣り合いな大きなバッグを肩から下げて。 「ふぇ…え〜ん…ふぅぅ〜ぱぁぱぁ〜…」 彼に抱かれている子供は疲れて眠いのか、ややぐずり気味で不機嫌な声を出している。 夕方よりは夜に近い時間帯、俺はスーツのままスーパーの惣菜コーナーに身を潜めて二人を見張っていた。 百九十センチを超える身長を乾物の棚の脇に身を小さく屈めて対象に悟られないように観察していたのだがもうダメだ。 小さな瞳が俺を捉えてしまった。 「ぱぁ!ぱ!」 「ん?真咲どうし……あ!……郁弥(いくや)……!何でこんな所に……」 振り向いた男は驚いて俺の名を呼んだ。 「あ…その…偶然?だな…」 ちょっとわざとらしかったか。 俺の名を呼んだ男は驚いた顔から一転、不機嫌な声を出した。 「郁弥まで…?俺についてくんなよ!」 「ちょっと、何そんなに怒ってんだよ!」 声を荒立てる涼真(りょうま)はカートを握る手に力を込め、俺の前から足早に通り過ぎようとしている。 あれ? こんな奴だった? 俺の記憶の中の彼は穏やかで口数が少なくて、一方的に怒りをぶつけてくるようなタイプでは無かった。 「美織(みお)の差し金なんだろ?」 「美織の差し金?どういう事なんだ?」 俺は“ 差し金 ”という言葉が胸に引っかかりながらも逃げるように店の入口に向かっていく涼真の後を追った。

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