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第2話

「帰れって」 「少しでいいから話しようよ、涼真」 涼真が会計をしている間に俺は余裕で追いつき、ストーカーのように涼真の住むマンションまでやってきた。 会社から三駅の駅近で同じブロックにスーパーがあり、恐らく子育てには便利な所。 「子供寝かせなきゃならないんだ」 「待ってるから…ちょっと、閉めるなよ!」 涼真は話の途中でも扉を閉めようとして、ドアノブから手を離さないでいる。 俺は片足を玄関の中に突っ込んで締め出しだけは回避するスタイルだ。 「声大きい、近所迷惑!」 眉間に皺を寄せて涼真が俺を睨んだ。 ……確かに。 玄関扉を半開きにして男二人が揉めているからな。 だが俺だって譲らない。 「……じゃあ、入れてよ」 涼真が俺から視線を逸らした。 「……ちッ……」 …舌打ちかよ! だが粘って正解。 ドアノブを掴んでいた手が緩み、俺は無理やり身体を扉の内側に滑り込ませた。 「真咲、あ〜ん…」 「ん〜、ぱぁぱ……やぁ…」 小さな子供の食事風景とはこんな感じなのか? ローテーブルに並べられたおままごとのような食事。 その前で脚の短い小さな椅子に大きなヨダレ掛けを装着して座っている子供。 「真咲、食べないと大きくなれないよ」 「だぁ!」 右手に握ったフォークを宙に振り上げて左手で小さなおにぎりをご機嫌で握りつぶす。 「真咲!食べ物を粗末にしない!」 「きゃ〜ぁ!」 怒る父に喜ぶ子供。 子供の生態を知らない俺にはコントにしか見えない。 「もしかして、俺の存在に興奮してる?」 見慣れない大人がいるせいなのか? 「あー……いや、いつも…家じゃこんな感じ……」 涼真の視線は衣服やおもちゃが散らばった室内を泳ぐ。 より深く刻まれる眉間の皺に涼真の苦労が偲ばれた。

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