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第322話
「何してんだよ」
「え…?」
突然声が降ってきて、俺は顔をあげた。
居るはずのないその人はぼんやりと淡い光を纏っているものの昔とちっとも変わらない。
「迎えに来た」
「…俺を?」
「…うん」
はにかむように微笑んで両腕を開き、俺が応えるのを待ち構えている。
視線を外せないままで立ち上がり溢れる想いを堪えてギュッと拳を握った。
「…会いたかった」
「…うん。俺も」
「·····ずっと待ってた」
「·····うん。ゴメン」
その胸に飛び込みたいのに、·····立ち上がったのに何故か足が動かない。
「ねえ、俺寂しかったんだ。一人で·····」
そう言うと少し困った顔をして腕組みをした。
「そう?違うんじゃないかな」
違わない。
少しも。
だって君のいない世界なんて俺にとってはただの
闇。
誰に話しかけられても誰と過ごしても·····なんの意味もない。
「·····でも、みんなに愛されてた、·····でしょ?」
ああ、確かにそうかもしれない。
·····でも·····
「俺が欲しいのは·····たった一つなんだ。知ってるだろ?」
するとふわっと優しく微笑んで俺の右手を取った。
「·····うん。だから·····」
口の形が·····音を発しなくても分かる。
「····· ····· ····· ····· ·····」
「·····うん·····」
温かいものが頬を伝わり床に落ちた。
ああ、俺は泣いてるんだ。
次から次へと、ボロボロと落ちるそれは俺の顎や喉を濡らした。
「連れてって·····俺を」
「·····一緒に·····ね·····」
伸ばされた手を取ると冷たい感触が指に触れた。
これは·····
「指輪·····」
頷いて俺の左手を顎で指す。
「いつの間に?無くしたはず·····」
「ねえ、·····キスして」
近づく顔、近づく唇。
「ん·····」
柔らかくて温かい·····懐かしいこの感じ。
「もう離れないから」
「うん、離さない」
そう答えた笑顔は、あの褪せた写真と同じ。
「ありがとう·····」
俺はその胸に顔を埋めた。
いつか会えると信じていた。
再び目見えて声を上げて泣いた。
泣いて、泣いて·····泣き尽くして、顔をあげた俺に優しいキスを落とす君。
ありがとう。
もう、·····ずっと離れない·····
ずっと·····一緒·····。
――おわり――
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