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第5話
明吏side
紅茶を飲みながら、二人で話す。こんなゆっくりとした時間は久しぶり…。すれ違いがあった訳でも無いのに少し気まずい感じがするのは、何故だろう。
「メイメイ、ちゃんと覚えてる?」
「覚えてるよ」
「覚えるの苦手なのにね」
なんて、クスクス笑ってる。"そうだね" なんて、ふふっと笑う僕。
僕は後遺症のせいで覚えるのは苦手だし、高校生以降の記憶しかない。勉強や生活などは問題なかったけれど、築き上げてきた人間関係や、人の顔、声、『人』に関わるものを忘れてしまった。
そして、それらを新しく覚えることも苦手になってしまったのだ。どう頑張っても人の顔を思い出せなかったり……
「そう言う好くんこそ、ちゃんと覚えてる?」
「もちろんっ。覚えてるよ?」
「あの日は暑かったね」
「ううん、あの日は少し肌寒かったよ?緊張しててちょっと暑い気はしたけど」
「…ふふっ、そうだね。そうだった」
あの日は、秋のはじまりかけた日で。ようやく夏の残した暑さが和らいできた頃だった。人生初のデートは緊張しすぎて暑かった…。
恋人と何を話したらいいかと考えてたら、うまく寝れなくて、ちょっとだけ寝不足だった。
「ここの紅茶美味しいって好くんが教えてくれた」
「うん。初めて飲んだ時美味しくて、共有したくなったんだっ。メイメイと一緒だったらもっと美味しいかなって思ったんだよね」
「ふふっ、そうなの?」
「そうなのっ。…クスッ、笑わないで聞いてね?…あの時はね、『美味しい』って言ったんだけど、緊張しすぎて全然味がわからなかったんだ」
「…僕も、一緒だよ。初めてだから緊張してて全然分かんなかったんだ」
なんて、今ならわかる。この紅茶がとてもおいしいと…。初めてデートした日から、時々一人でも紅茶を飲みに来てたなぁ…。
二人で来ると必ず緊張しちゃって味が分からないんだもん…。
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