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彼の秘書

「ただでさえ納期が遅れているんですよ。現場に戻って下さい」 きよちゃんが助けに来てくれた。 それでも動こうとしないおばちゃんたちに、 「黒田さんに怒られても知りませんよ」 勤続30年目のパートさんの名前を出した。 幾つかあるおばちゃん達の派閥をうまい具合にまとめているすごい人だ。 社長も一目置いている。 その時、ごほんとわざとらしく咳払いする声が後ろから聞こえてきて。 蜘蛛の子を散らす様にあっという間におばちゃん達が一瞬でいなくなった。 「四季くんに構っている暇なんてないのに」 「黒田さん、ありがとうございます」 ぺこっと頭を下げた。 「いいのよ別に。段ボールを取りに来ただから」 何事もなかったように倉庫へと向かった。 「あのね、きよちゃん」 「ん?」 「やっぱりなんでもない」 首を横に振った。 「え?なに、なに、気になるでしょう」 「えっとね。あのね…………」 言いにくかったけど、きよちゃんやたもくんには隠し事はしたくなかったから、正直に言うことにした。 「今度の土曜日、和真さんに海に連れていってもらうことになった」 一瞬きよちゃんの動きがピタリと止まった。 「どうしても断ることが出来なかった。だってね、和真さんすごく嬉しそうだったから。悲しい顔をさせたくなかった」 「あのね四季…………」 きよちゃんが呆れるのも無理ない。 和真さんは自分より大人の男の人。 しかも生まれた場所も育ちも、いまの立場も身分も何もかもが違う人だもの。

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