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彼の秘書
駐車場に着くと和真さんが先に下りてトランクから車椅子を運んでくれた。
ドアを開けてもらい、車椅子をすぐ隣に置いてもらい、そこへ移動しようとしたら、お尻の下に彼の手がすっと入ってきて、そのままふわりと体が宙に浮いた。
「………!」
突然のことに驚いて声も出なかった。
「足を滑らせて転んだりしたらそれこそ大変だ」
和真さんに顔を覗き込まれた。
吸い込まれるように見上げると、彼は目を細めて微笑んでいた。
「大丈夫?顔が真っ赤だけど」
ドキマギしながら慌てて首を横に振った。
ただでさえ整った顔の人だから、間近から見詰められると男同士でも心臓が跳ねる。
羞恥で顔から火が出そうになった。
(あれ……?)
その時ーー
いままで全然気付かなかった優しい香りが鼻先を掠めた。
甘く、けれど甘すぎず、穏やかでほっと出来る香りだ。
「副島に言われたことは忘れろ。頼むから俺の前では暗い顔をしないでくれ。きみのことが心配で心配で、なにも手に付かなくなるんだ」
あくまで柔和で優しい。
決して興味本位からではなく、本当に僕を気遣ってくれているような、そんな表情。
ゆっくりと車椅子に下ろしてもらった。
いってらっしゃいと彼に笑顔で手を振られ、恥ずかしくて下を向いたまま会社に戻ったものの、一部始終を見ていたパートのおばちゃん達に早速捕まり質問責めにあった。
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