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彼の秘書

副島!彼が声を荒げ会議室から出てきた。 「四季を侮辱することは俺が許さない。それに一度も婚約した覚えはない」 目を吊り上げ詰め寄った。 見慣れた日常の光景なのか回りにいた社員は誰一人と止めに入ろうとはしなかった。 「和真さん、僕は大丈夫だから」 胸ぐらに掴掛かろうとした和真さんのスーツを必死で掴んだ。 「四季、きみって子は…………」 目を丸くして驚かれた。 何か変なことしたかな? 「いや、なんでもない。帰ろうか」 頭(かぶり)を振ると、肩を軽く押された。 「そんなに緊張しなくてもいいのに」 彼に言われてはじめて気が付いた。 シートベルトを握り締めてビクビクしている自分に。 「俺が怖い?」 「いいえ」思わず声が上擦った。 「図星か」 「違います」ぶんぶんと首を横に振った。 「意地悪な質問だったかな?それじゃあ話題を変えよう。思い出の場所ってある?」 「へ?」 予想もしていなかったことを聞かれ、一瞬頭の中が真っ白になった。 「えっと………その………小学生のときに一度だけ水族館に連れていってもらったことがあったんです。休日だったせいかすごく混んでいて、前にも後ろにも進めなくて。それにむしむししててとにかく暑くて、気持ち悪くなって、5分とたたず外に飛び出したんです。すぐ目の前にある海を眺めているうち、モヤモヤした気持ちが一瞬ですっーと消えていったんです」 「じゃあ、今度の土曜日、海を見に行こう」 「え?あ、あの………」 断ろうとしたら、にっこりと満面の笑みを浮かべられ、断るにも断れない状況に追い込まれてしまった。

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