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彼の秘書

どきっとして上を見上げると、不愉快そうにメモ紙を眺める和真さんの姿があった。 「あ、あの………」 普段の優しい彼とはまるっきり別人のようだった。 「四季、この番号は?」 苛立ちも露わに眉を寄せ、強い口調で聞かれた。 「さっき乗ってきたタクシーの運転手さんの携帯の番号です。帰りも利用するなら電話をくださいって言われて」 「そう」 和真さんがメモ紙を片手でくしゃくしゃと握り潰すとエレベーターの前にあった観葉植物の鉢植えにぽんと捨てた。 「5分待っててくれるかな?送っていくよ」 「あ、でも、会議………」 「会議より俺にとって四季の方が大事だよ。いてもいなくても別に変わらないし」 和真さんが手にしていた300mlくらいのお茶のペットボトルを両手に握らせてくれた。 「怒ったりして悪かった。少し待ってて」 いつものように穏やかに微笑むと、何事もなかったように会議室に戻って行った。 女性社員たちが僕を興味深そうにちらちらと何度も見ながら前を素通りして行った。 クスクスと笑いながら、ひそひそとなにかを話していた。 そんなに障がい者が珍しいのかな? 車椅子には乗っているけど、普通の人と何ら変わらないと思うんだけどな。 上を見上げると雲ひとつない青空が目に飛び込んできた。 「ここはお前みたいな田舎者が来る場所じゃないんだよ。和真のお気に入りか何か知らないが、和真には婚約者がいる。図に乗るなよ。いいか分かったか」 背後からとげのある声が聞こえてきた。 この声は………そうだ、副島さんだ。 振り返ると、バかにするように見下され鼻で笑われた。

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