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彼の秘書
挨拶をする社員に爽やかな笑顔で応じながら和真さんが奥から颯爽と姿を現した。
「和真さん」笑顔で車椅子を移動すると、隣に立っていた男性に、
「和真さん……?」
怪訝さと険しさの籠った声で言われ、身体をさらに縮こまらせた。
「副島、四季は大切な友達なんだ。頼むからあまり怖がらせないでくれ」
「友達?こんなガキがか?頭大丈夫か?」
チラリと男性を見上げると、眉を寄せて頭を抱えていた。
「俺が誰と付き合おうとお前には関係ないだろう」
和真さんの大きくて温かな手が肩にそっと触れた。もうそれだけで胸がドキドキして、心臓の音がますます速く大きくなった。
「行こうか?丸和電機の貝沼社長が待ってる」
和真さんは車椅子の速さに合わせて歩調を合わせてくれた。
背中にチクチクと刺さる氷のような冷たい視線を感じながら、彼のあとを追った。
フロアーの奥にある役員専用のエレベーターに乗り込み五階の会議室まで案内してもらった。
「長澤すまんな。一人で大丈夫だったか?方向音痴だから迷子になったんじゃないか心配で心配で……無事に着いて良かった」
社長を呼んでもらい書類を渡すと、ほっとしたのか胸を撫で下ろしていた。
「和真さん……じゃない。朝宮さんが助けてくれたから」
「そうか。実はな……」
チラリと周囲を伺う社長。
「やっぱりいい。詳しい説明はあとだ。気を付けて帰れよ」
何をそんなに慌てているのか、そそくさと会議室に戻っていってしまった。
エレベーターが上がって来るのを待ちながら、タクシーの運転手さんから渡されたメモ紙をポケットから取り出した。
帰りも利用するなら電話をくださいって、携帯番号とタクシー会社の番号を書いてくれた。
それを眺めていたら背後から音もなく手が伸びてきてすっとメモ紙を取られた。
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