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ただいま駆け落ち中(仮)
鳥の囀ずる声が聞こえる。
頬を撫でる風が心地良い。
空がこんなにも青いなんて。日々の生活に追われて全然気付かなかった。
「四季くん、お茶入れたわよ」
「あ、はい」
あのあと彼に連れていってもらった場所は退職後移住してのんびりと田舎暮らしをしている彼のお爺ちゃん、お婆ちゃんの家だった。
熱烈な大歓迎を受けてしまった。
「しっかり肩に掴まって」
彼に抱っこしてもらい縁側に座らせてもらった。
「寒くないか?」
彼が着ていた上着を脱いで肩に掛けてくれた。
「和真さんが風邪ひいちゃう」
「ありがとう心配してくれて。俺は大丈夫から」
彼がにっこりと微笑みながら隣に腰を下ろしてきた。
「和真からね、これから行くから2日泊めてくれっていきなり言われてお爺ちゃんもお婆ちゃんもそりゃあびっくりしたのよ」
「こころの準備ってもんがあるだろう」
「ここしか思い付かなかったんだ。四季をどうしても二人に紹介したかったし、本当にごめん」
彼が湯呑み茶碗を手に握らせてくれた。
初めて会うのにどこかで会ったような、懐かしい感じがした。ここに来る前はガチガチに緊張していたのに、他愛もない会話をするうちふっと肩の力が抜けていつの間にか緊張の糸が解れていた。
今頃大騒ぎになってると思う。
上唇を噛み締めぎゅっと手に力を込めると、
「なるようにしかならないよ」
髪をぽんぽんと軽く撫でられ励まされた。
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