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暗澹

「本人に必ず渡すからと園長自ら受け取りに来たそうだ。四季の弁護士が本人が受け取りを拒否しているからと初瀬川家を訪ねた翌日のことだ。昨日の今日でコロコロと変わるものかと初瀬川さんの弟の隆之さんは不信感を抱いたそうだが、彼の両親は園長を信じ金を渡してしまったそうだ。領収書を忘れたからあとで郵送すると園長に言われた隆之さんが、金額が金額だけに、そんなのあり得ないと騒ぎ立てて、印鑑がないならその旨を紙に書いて拇印を押すように迫った。渋々、嫌々ながらも園長は従ったそうだ」 「そんな……全然知らなかった」 「そのあと3回続けて空き巣被害に遭い、その年の冬、自宅を放火され逃げ遅れた隆之さんの両親が犠牲になった。この2年、園長から領収書が郵送されてくることも、被害者から手紙も一切なし。施設に何度電話しても門前払い。両親を殺したと疑われた兄も失踪してしまった。だから初瀬川さんは被害者であるきみを恨むようになったみたいだよ」 「嘘……」 信じられなくてわなわなと震えながら、両手で口元を覆った。 「真実を知った隆之さんは、園長を告訴することを決めたみたいだ。そして、四季には……」 彼がスマホを操作し膝の上に置いた。 「スマホにボイスレコーダーのアプリがあることを副島に教えてもらって初めて知ったんだ」 ちょっと恥ずかしそうににこっと笑んで、再生を押してくれた。

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