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報われない想い

その直後。ずっと胸の奥にしまっていたあの日見た光景が脳裏を過った。 「世間は五体満足の人間だけを優遇する。四季みたいな欠陥品は、誰からも愛される資格などない。生きている価値もない。どうせすぐに金も底をついて路頭に迷うようになるさ」 神様に誓って盗み聞きするつもりはなかった。 園長先生に用事があって園長室を訪ねた。いるはずなのにノックをしても返答がなかった。 諦めて出直して来ようと思ったら、誰かとひそひそと話す声が聞こえてきた。しかもドアが少しだけ開いていた。 「ねぇ先生、誰かに見られたらどうするの?」 「誰も来ないさ。それに鍵は閉まっているんだ」 女の人の……声? その声はどこかで聞いたことがあった。すぐに思い出せなかったのはいつもと違う声だったから。 「やだぁ、先生。見ちゃだめ! 「くりちゃんがほら膨らんできた。甘い汁も……なんだ、もうぐじょぐじょじゃないか」 性に無知な僕にとってそれはあまりにもショッキングな出来事だった。 その場から逃げ出したいのに、なぜか動けなかった。 「だめ、ちゃんとゴム付けて」 ドアの隙間からちらっと一瞬だけ深緑色のスカートが見えた。そのときはどこの高校の制服か分からなかった。 「四季、どうした?」 はっとして我に返ると、心配そうな眼差しで顔を覗き込む彼と目があった。 「僕ね、欠陥品だって言われたんだ。誰からも愛される資格がない。生きている価値もないって。世間は五体満足の人間だけを優遇するって。それをなぜか、今思い出したんだ」 「そんな酷いことを言われたのか?誰に?」 「あのね」 彼にはそれが誰かすぐに分かったみたいだった。 「どこまで四季を侮辱したら気が済むんだ」 彼がこんなに怒る姿はじめて見たかも知れない。

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