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複雑に絡み合う想い
相手は塩酸を所持している。何をしでかすか分からないんだ。イチャついている場合じゃないだろう。電話に出るなり副島さんに怒られた。
「寝る時間だ。切るぞ」
『四季を寝せる気などないくせに』
「なんでみんなして同じこと言うのかな?」
『もしかして結にも言われたのか?』
「姉さんとお婆ちゃんとお爺ちゃんとお前の父親にな」
『なるほどな』
副島さんが苦笑していた。
『結は俺の父が別の場所に避難させたから安心しろ。初瀬川さん姉弟と黒田さんも無事だ。今送信した写真を四季に見せてくれないか?この男に心当たりはないかって聞いて欲しい』
「分かった」
彼が素っ気なく答えると、
『本当に分かってるのか?』
ほとほと困ったようにため息をつかれた。
大きなあくびをするTシャツを着たボサボサ頭の大柄な男性が写りこんでいた。
無精髭のある精悍な顔は、大人の男性の色香をふんぷんさせていた。髪の長い綺麗な女性と肩を寄せ合い談笑していた。
「見たことある?」
「えっと、どこかで見たような……思い出すから、ちょっと待ってて」
彼の腕枕で横になり、男の顔を穴があくほど見つめた。
「橋本さんがいなくなる直前、この男が見舞いに来ていた。警察もこの男を重要参考人として探している」
「もしかしたらこの人、施設の職員だったかも知れない。名前はえっと……」
喉まで出かかっているのにすぐには思い出すことが出来なかった。
しゅるしゅる~と浴衣の帯が外される音にドキッとして彼を見上げると、顔が近付いてきてチュッと口付けをされた。
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