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複雑に絡み合う想い
「か、和真さん」
戸惑いに目を瞬かせると、
「やっぱり似合うな」
彼が微笑んだ。
「浴衣、可愛いよ」
「可愛いくないです」
「そうか?」
愉快そうにくくっと笑うと、もう一度そっと口付けられた。
「ん……っ」
優しいのに情熱的なキスは瞬く間に劣情を煽る。
こんなことをしている場合じゃない、と分かっていても、じわじわと身体が熱くなってしまう。
「だ…だめです」
狼狽えながらなんとか彼を引き離した。
「何で?」
軽く首を傾げる彼に、
「だっ、だ、だって……写真、副島さんに誰だか言わないと」
「思い出したのか?」
自信ないけど多分間違ってないと思う。こくりと頷いた。
「初瀬川さんを探すためみんなで泊まった民宿に副島さんが来てくれたとき、確かみさきさんって名前が出たと思うんだけど。僕の記憶間違いだったらごめんなさい」
「高橋……いや、丸山だっけ?あれ?ごめん俺も度忘れしている」
「この人がみさきさんです。左手首にミサンガを二重三重に巻き付けているでしょう。これはリストカットした痕を隠すため。思い出した。本当の名前は円谷紗千香 さん。園長先生が娘だってみんなに紹介してた。男性は……えっと……しい…なんだっけ。あ、そうだ椎谷 さんだ。たもくんときよちゃんが園を卒業したあと職員として入ってきたんだ。でも女の子に悪戯しているって噂が流れて2ヶ月もいないうちに退職したんだ」
必死で思い出したら身体中汗だくになってしまった。
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