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コオお兄ちゃんのすきなひと

「いつか四季にこのハナミズキを見せてやりたい、母さんの願い事がまたひとつ叶った。ありがとう四季」 「僕は何も」 服にしがみつきながら首を振ると、コオお兄ちゃんの肩越しに彼が憮然としているのが見えた。 「コオお兄ちゃんお願いだから、車椅子に戻してください」 服をツンツンと引っ張り蚊の鳴くような声で頼んだ。 「和真、ちゃんと四季にご飯を食べさせているのか?」 「四季は元々少食だ。もういいだろう。妻を返してくれ」 両手を大きく広げた。 「分かったよ」 やれやれとため息をつきながら、くるっと一回転した。 「コオお兄ちゃん怖い」 怯えた魚のように目と口をぱちぱちさせて、首根っこにぎゅっとしがみついた。 「四季が怯えているだろう」 「昔のまんまだな。抱っこしてさっきみたくくるっと一回転すると怖がって半ベソかいていたもんな。高い高いも怖いって言って半泣きしていた。昔と全然変わらない。ほら、和真。ちゃんと宥めてやれ」 愉しげに声を立てて笑いながら、彼の腕の中にそっと下ろしてくれた。 城さんが部下を伴い家を訪ねてきたのはそれから30分後のことだった。

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