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後悔

「そういえばあの女性、待合室でママの腕に抱っこされて眠る赤ちゃんの顔を、傍らにいた若い刑事と男と愛おしそうに見つめていたわね。50代でも赤ちゃんを産めますか?って真剣な顔で聞かれて、いまは医学も進歩しているから、産めないことはないと答えたら、男性と手を取り合って喜んでいたわ。その時は親子かなって思ったけど、今思えば恋人同士だったかも」 その時のことを思い出し話してくれた。 「先生」看護師さんかな? ビニール袋に入った巾着を南先生に先生に渡した。 「あ、そうだ。これね、その女性の忘れ物。すぐに気付いて追い掛けたんだけどどこにもいなかったみたい。もし会うことがあるなら渡して欲しいの。本人にとっては大事なものだろうから」 南先生が手にそっと握らせてくれた。 数分後ーー。 「あの子、円谷さんっていう名前なんだね。2年前と同じだ。一度も病院を受診していない。また妊娠中毒症になったら、胎児だけじゃない、円谷さんの命にも関わる。無事に見付かるといいけど……」 永原先生が心配顔で二階に上がってきた。 「きよちゃんは橋本だよ。円谷じゃないよ」 思わず彼の顔を見上げた。 「うん。そうだね。詳しくはあとで話すよ。ここじゃあ、なんだから」 僕を混乱させないようににこっと微笑むと頭撫でてくれた。

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