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はじめての家族旅行

「副島が風呂から上がったあとに彼が入ってきて」 櫂さんがぷぷと思い出し笑いを浮かべた。 「旅行のこと、彼には一切何も話さなかったんだろう。自分だけのけ者にされたって、一人でぷんすか怒っていたんだ。その怒りかたがまた可愛くて」 「どこが可愛いんだ」 運転手席から苛立ったコオお兄ちゃんの声が聞こえてきた。 「俺が可愛いって思うのは四季だけだ。和真、曲がるところはこの先か?ナビだともう少し先みたいだけど。分かりづらい」 「この先に信号機がある。そこを右折すれば駐車場まで5分とかからない」 「そうか、ありがとう」 コオお兄ちゃんがバックミラー越しに後ろをちらっと見た。なんで付いてくるんだ。目がそう言っているようだった。 「結お姉さん、櫂さん、斎藤さんの弟さんの名前……あ、そうだ」 これだけお世話になっておきながら、斎藤さんの下の名前をまだ知らないことに今頃になってやっと気付いた。今の今まで聞こうともしなかった自分が恥ずかしい。 「あの、両方教えてもらってもいいですか?」 蚊の鳴くような声でふたりに頼んだ。 「四季くんが知ってる方が翼で、後ろの彼が昴で年子の兄弟なんだけど、誕生月の関係で二学年下になってるの」 「副島は3月生まれ。昴くんは6月生まれなんだ」 「そうなんですね」 ちらちらと何度か後ろを見ていたら、目が合い、じろりと睨まれた。やっぱり嫌われている。彼に睨まれるようなこと何もしていないはずなんだけどな。

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