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家族という名の赤の他人
「しーちゃん、めっけ!」
こはるちゃんが勢いよく部屋に入ってきた。
「どうしたのこはるちゃん?」
スボンの生地をむんずと掴むと、よいしょ、よいしょ、と掛け声を掛けながら膝の上に登りはじめたから、慌ててブレーキ棒を手前に引っ張り、車椅子が動かないようにブレーキをかけた。
コアラの親子みたく向かい合った格好で膝の上に座ると、親指をチューチューと吸いながら、顔を服にすりすりと擦り付けてきた。
「心春、ちゃんとくちゅくちゅ、ぺっ、しないと駄目だろう」
歯ブラシを手に彼があとを追い掛けてきた。
「もしかしてこはるちゃん、眠いのかも知れない」
「それなら無理強いはしない方がいいな。今日はお利口さんに歯を磨けた。明日の朝、起きたらうんと褒めてあげよう」
「うん、分かった」
「そろそろ歯医者に連れ行かないと。虫歯だらけだ。心春に聞いたら、ママの具合が悪くてほとんど磨いてもらったことがないそうだ。結姉さんと同じで夕貴さんも悪阻が酷かったんだろう」
「具合が悪くても悪阻が酷くても一生懸命ママしていたんだもの。夕貴さん偉いよ。貴大さんが少しでも手伝ってくれれば、こはるちゃん、野菜も歯磨きも好きになっていたかも知れないのに」
ママ、ママ。
ママが恋しくて、寂しいんだと思う。
こはるちゃんの目から涙がポロポロと零れた。
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