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つかの間の穏やかな日々

纏う雰囲気がどことなく彼に似ていた。 もしかしてこの人………。 男性の顔をそれとなく見ていたら、怪訝そうに見下ろされ慌てて視線を逸らした。 「お弁当のレシピ本これでいいかな?レジ前にも特設コーナーがあったけど案内しようか?」 「いえ、大丈夫です。本を取っていただいてありがとうございます」 「困っているときはお互い様だよ。気にしないで」 男性にお礼を述べてすぐに立ち去ろうと思ったけど。 「あの、すみませんが、もう一冊本を取って頂きたいのですが……」 「もちろん。どの本?」 「隣の棚に子どもを虫歯から守る食育献立っていうタイトルの本があるんです」 「分かった。ちょっと待ってて」 男性がすぐに見付け取ってくれた。 本を渡されたとき、 「きみ、高校生?」 「いえ、違います」 「じゃあ大学生だ。もしかしてひとり?」 「いいえ」 「それは残念。ひとりならお茶に誘うかなって思ったから……」 男性が僕の手をちらっと見て「なるほどね」苦笑いとともにため息をついた。

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