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彼のお父さん

カランカラン、ドアベルが鳴りひとりの男性がカフェに入ってきた。 「いらっしゃい……」 あれ?このひとどこかで見たことがある。 思い出そうとしても思い出せなかった。 「何しに来たんですか?」 櫂さんが目をつりあげ、険しい表情で男性を睨み付けた。 「四季くん、近付かない方がいい」 「どうしてですか?」 「彼が朝宮和彦、だからだよ。結と和真くんに会わせろってしつこくてね。営業妨害もいいところだ」 棘のある言葉で呼び捨てにする櫂さん。 こんなにも怖い彼を見るのが初めてで。どうしていいか戸惑ってしまった。 この人が彼のお父さんなんだ。 すらりと背が高くハイブランドのスーツを粋に着こなし、還暦前だとは思えないくらい若々しくて、ダンディーで甘いマスクをしていた。若い女性にモテるのも頷ける。 目のあたりは彼に似てるかも知れないけど、彼はこんなきつい表情はしていない。優しくて慈悲深くて穏やかな表情をしているもの。 なるべく目を合わせないようにして、他のお客さんの接客をしていたら、朝宮さんの方からやって来て、 「客に向かって愛想なしか。樋口はバイトにどういう教育をしているんだ。あ、そうか。誘拐犯を匿っているくらいだから、常識なんてある訳ないか」 ゲラゲラと馬鹿にするように笑い出した。

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