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キヨちゃん一途の彼

背後に数人の男を従え、重厚なスーツ姿の長身の男が進み出た。 男の顔を一目見るなりヤスさんが怪訝そうに眉をひそめた。 「へぇ~~」 煙草の煙をくゆらせながら、男が目を細めた。 「これはこれは真山さん」 多勢に無勢の不利な状況でもヤスさんは堂々としていた。 真山さんは同じ施設の出身。大先輩だ。にも関わらず何ひとつ覚えていなかった。 「お前こそ誰だ?」 「気安く兄貴の名前を呼ぶんじゃねぇ」 黒ずくめの男たちがヤスさんに食って掛かった。 「俺か?菱沼組の若頭の補佐をしているヤスだ。オヤジの身内である彼の専属弾よけでもある」 「ソイツが組長の身内だと?笑わせるな。ハッタリも休み休み言え」 男がげらげらと笑い出した。 「嘘だと思うなら、渋川に聞いてみろ。どけ、邪魔だ」 ヤスさんがドスのきいた低音ボイスで男たちを睨み付けた。醸し出す桁違いのオーラに気圧され男たちが後退りし道を開けた。 「四季行こうか」 「ヤスさん待って」 「どうした?」 「真山さんに聞きたいことがあるの」 「聞きたいこと?」 「うん。最近のキヨちゃんの様子。マタニティーブルーも酷かったみたいだし、予定より早く赤ちゃんが生まれたから心配で……余計なお世話なのは分かってる。人の心配をする前に自分の心配をしななきゃならないことも」 「きみって子は……」 ヤスさんが驚いたように目を見開いた。

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