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結婚式当日
「四季、ゲストの皆さんを待たせると悪い。頼むからドアを開けてくれ」
ドアの向こうから彼の声が聞こえてきた。
「恥ずかしくて人前に出れないよ」
ドアノブを両手で必死に押さえた。
「華奢な体からは想像できないくらい、相変わらず馬鹿力だな。お腹の子もビックリだな」
愉しげに笑う声が返ってきた。
「だってウェディングドレスは着ないって約束だったのに……」
「一生に一度きりの結婚式だ。思い出に残るようにって卯月さんがわざわざ準備してくれたんだ。花嫁らしく装うのは、集まってくれたゲストの皆さんへの礼儀だよ」
「それは分かるけど……」
車椅子のひとでも簡単に着られる真っ白なウェディングドレスをヤスさんからぽんと渡されたのは結婚式が終わり、このホテルに移動して控え室に入ったときだ。車輪に絡まないように裾の膨らみは出すぎないようにしてある。マタニティー用だからお腹周りもゆったりしている。タキシードより断然こっちのほうが花嫁らしい。和真が泣いて喜ぶくらい可愛い。以上がオヤジからの伝言だ。そう言ったあとヤスさんが急に涙ぐんだから驚いた。
「大事な一人娘を嫁にくれる親の気持ちが分かったような気がする。四季、幸せになるんだぞ。和真、俺の可愛い娘を泣かせたら承知しねぇぞ」
「はい。肝に銘じます」
彼の背筋がぴんと伸びた。
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