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第四章・4
それより、と今度は由樹が話を振った。
『紫苑の家に、遊びに行ってもいい? いつなら、お父さん居ない?』
「明後日なら、OK」
『嬉しいな。何か差し入れとか、いる?』
「いらないよ。酒とか持って来られても、飲まないからな」
その後、二言三言話した後で、紫苑は通話を切った。
話し終えた彼の胸に残っている感情は、由樹に会える喜びより、波留への心配が勝っていた。
「……ったく。来夢のやつ、何考えてるんだ」
紫苑にとって兄は、越えられない壁だった。
来夢もまた、同じように考えていると思っていた。
だのに。
『αの男って、自分より劣るはずの人間にマウント取られるの嫌うから』
由樹の言葉が、思い出される。
まさか波留のためにと来夢にストップをかけたはずが、逆に作用するなんて。
紫苑は、頭を抱えていた。
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