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怪しい者ではございません。

※前回の話の兄サイド。  いつもの場所で煙草を吸おうと思ったら、テラスの縁に覆い被さる雑草の茂みから、二匹のカナヘビが縺れ合いながら転がり出てきた。逃げようとしている一匹の下腹に、もう一匹が噛み付いている。交尾をするところだ。  メスはパニック状態だ。そりゃそうだ。オスの顎がめり込むほど腹に食らい付いているんだから。だが、これがカナヘビの交尾開始の流儀だ。  オスはメスの腹に食らいついたまま、ぐい、ぐい、と前進する。その動きが、これは攻撃ではなくて交尾を誘っているのだと、メスに知らせるらしい。  怪しい者ではございません! 怪しい者ではございません!  噛み付いてから言うかよって思う。そして、なんか知玄(とものり)っぽいなって思った。  一年と一ヶ月くらい前、俺が昼寝していたところに知玄は急に噛み付いてきた。気が付いた時にはもうすでに首筋にガッツリ歯がめり込んでいたせいで、俺にはどうにもできんかった。でもって知玄は、こころゆくまでヤった後で、俺に土下座した。  怪しい者ではございません! 怪しい者ではございません! の動きが功を奏したらしく、メスは押されるがままに押され、やがて仰向けにひっくり返った。そこをオスはすかさずメスの下半身に絡み付いて両の手足で締めつけ、交尾に持ち込んだ。メスは迷惑そうな、諦めたような顔で、身を任せていた。こうなるとクッソ長い。最長では一時間くらいヤり続けるらしい。  オスはメスを噛む顎と締め上げる両手両足に力を込め、そして目をつぶった。嬉しそうな顔に見える。俺としてた時の知玄も、後ろから俺を抱きしめながら、こんな顔してたんかな。だったらいいな。でもヤる方からすれば、深く挿入出来ないし不満の残る体位だったかもしれん。ヤられる方の俺としては、背中をすっぽり被われるのは安心感があって、気分的にハマれる体位だったのだが。  なんて考えていたら、知玄がいつの間にか横にいたのでビビった。     (おわり)

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