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たまには兄から。①
※2003年の11月頃。
●
父の車のエンジン音が遠ざかっていく。カーテンの隙間から外の様子を窺っていた兄が、こちらを振り返った。
「行ったぞ」
「やったー!」
「そんなにはしゃぐなって」
はしゃがずにはいられない。だって、久しぶりに兄と二人きりだ。最近、僕は毎晩兄のベッドに入れてもらっているけれど、こそこそ寝るのとのびのび寝るのとは、大違いだ。
二人とも、お風呂はすでに済ませてある。夕飯は、ことが終わってから外に買いに行くなり食べに行くなりすることになっている。お腹一杯の時にすると腹具合が悪くなる、と兄が言ったからだ。
「それにしても、お兄さん。今夜はお父さんとお母さんが出かけるなんて、よく分かりましたね」
父は気まぐれな質 で、行動が読めない。今日だって、父が母に一泊旅行に行くぞと宣言したのは、つい一時間半前のことだ。
「なんとなく、勘だな」
兄はニヤリと笑い、歩いてきた。そしてベッドに寝そべると、僕の方を見上げて言った。
「で、どうしたいの?」
スエットの上下を着て、シーツに片肘をついて、片膝を上げたポーズ。休日のお父さんスタイルのようだけど、僕には兄の上げた片膝がいやに扇情的に見えた。ごくり、と僕は生唾を飲みこんだ。
「僕、たまにはお兄さんからしてもらいたいです」
「何、突っ込んで欲しいってこと?」
「ややっ、そうではなくて……」
いつもは僕が誘って兄が受け入れてくれるという流れなので、たまには兄が主導権を握ってくれないかな、ということ。
「ふーん。じゃ、俺が上に乗るけど突っ込むのはお前ってことでいい?」
「そんな感じですかね?」
「ですかね? って」
まあいいかと兄は言い、上着を脱いだ。トレーナーの下はもう素肌だ。日焼けしていない、白い肌が露になる。日々の肉体労働に鍛えられた、まるでギリシャ彫刻みたいな裸体。ついうっとり見ていたら、兄が電気を消せというので、僕は勿体ないなと思いつつ、蛍光灯の紐を引いた。
室内が闇に沈む。さっきまで、窓の外は真っ暗だったのに、今は逆に窓から微かに光が入っているように見える。兄の白い肌が白さを増し、神秘的な雰囲気をまとう。
「来な」
兄が手を差し伸べるので、僕は上着を脱ぎ、おずおずと近づいた。兄の手が僕の頬を撫で、まだ濡れている前髪をかき上げた。兄の顔が僕の顔に近付く。切れ長の目が、鋭利な刀のように煌めいた。
僕が目を閉じたと同時に、額に弾力のある唇が触れた。兄の指先が僕のこめかみから顎のラインを撫で下ろし、首筋に至る。これだけのことで僕の脳髄はじんと痺れてしまう。肩を軽く押されるがまま、僕は仰向けにゆっくりとシーツに横たえられていく。兄の手は、僕が勢いつけて倒れ込まないように、僕のうなじから背中を支えてソフトランディングに導いてくれる。
枕の上に、僕の後頭部は無事着地した。目を開けると、兄は僕の顔の横に手を着いて僕を見下ろしていた。目元が涼やかで、鼻筋が通っていて、唇は薄く引き締まり、顎はシャープで、兄は本当に格好いい。僕は惚れ惚れしてしまう。今度は唇にキスを落とされ、全身にじんわりと淡い痺れが拡がり染みわたる。
まるで女子にするみたいに、二度、三度と口付けをされ、唇を食まれて、僕は生まれて初めて、女子に生まれたかった、なんて思った。お兄さんに、こうして抱いてもらえるのなら、女子になってもいい。かっこよくてモテる兄の彼女になんか、滅多やたらとなれるものでもないのに。僕は兄の弟で、一つ屋根の下に住んでいるから、ひょんなことからこんな関係になれただけなのに。
僕の両の頬や、鼻の頭や、頤 、そして喉仏にまで、兄は口付けを落とした。その度に、温かい快感がぽつぽつと花開く。兄の手に導かれて俯せると、背中にくまなくキスをされ、温かくぬめる舌先に、背筋や脇をくすぐられた。
背中を唇と舌でくまなく愛撫されたあと、また仰向けになるよう促された。寝返りを打つと兄と目が合った。兄の人差し指が、僕の下唇を押す。
「口開けて」
従順に開いた口の中に、人差し指と親指が侵入してきて、上下に押し広げる。口が「あ」を発音する形になった。
兄の湿った指先が、僕の胸の先端を摘み、弄ぶ。同時に、兄の唇は僕の唇を撫でる。それから口腔に兄の舌が侵入してきた。兄の舌が僕の舌に根本から優しく絡みつく。唾液が混ざり合い、甘いような味が口の中に拡がる。鼻先を掠める兄の匂いに酔い、興奮が身体の中心を熱くする。
切ない気持ちになって、僕は腰を浮かし、熱く滾った部分を兄の脚の間に擦りつけようとした。ぎこちない僕の動きに対して、兄はといえば僕の舌をしゃぶる合間に、巧みな腰遣いで僕の猛りに脚の間を撫でつける。
兄は僕の口から唇を離すと、突き上げる僕の腰を制するように、両手を僕の腰骨の出っ張りに置き、押し上げるようにして上体を起こした。兄の内腿が僕の腰を挟み込む。兄はそのままの態勢でゆっくりと腰を前後にグライドし始めた。布越しに、僕の猛りに兄のものの芯の通った硬い感触と熱い体温が伝わってくる。僕は堪らず両手を兄に差し伸べ、兄の胸のつんと尖った先端を摘まもうとしたが、
「ダメっ」
兄はピシャリと僕の手を叩いた。
「お前は受けるだけだ」
叩かれてじんじんと熱い手の甲を兄の手が撫で、指を絡めてくる。片手を繋いだまま、兄は前後に腰を動かし続け、僕を煽る。切羽詰まった僕の吐息に、兄の悩ましげな呼吸が重なる。僕は堪らず、そんなにしたらイッてしまうと訴えた。
やっと兄は腰を浮かし、僕の唇にチュッと軽く口付けると、僕のズボンとインナーのゴムの下に両手の親指を滑り込ませた。軽く上げた僕の腰から、兄はズボンを引き下ろした。既に先走りに濡れそぼった僕の先端が、ぷるんと弾かれたように姿を現す。恥ずかしくて、僕は思わず顔を背けてしまう。
僕はされるがまま、ズボンと下着を抜き取られた。目をつぶり、手で枕の端を掴んだら、「ウブな女の子みたいだ」と兄が笑うから、益々目を開けられなくなる。そんな僕の身体の前に、兄は背中にしたように口で丹念な愛撫を施す。 胸の先端をちゅっちゅっと吸われ、軽く歯を立てられるともうダメで、僕の脚の間のものはそそり立ち、涙を流すように先走りを溢れさせる。
兄の手が僕の頬を挟み込み、顔を兄の方に向けさせる。
「もう挿 れたい?」
と兄は囁く。
「はい、すごく挿れたいです」
僕はほとんど泣きじゃくっている。兄は満足げに口角を上げると、膝立ちになり、ズボンを下ろした。兄のものも滑りを帯びていて、滑りは僅かな光を反射して、淫靡に照り輝いた。
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