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キスの日はやっぱり、お兄さんとキスがしたい!②

「くすんくすん、こっちに来なー。くすすん、かわいーなぁー。くすすん、スリスリしちゃう」  気持ち悪っ! 最近の事情を知らない人がこれを見たら、兄をただの変質者だと思うかもしれない。  数日前、夕飯の時に兄が言っていたが、お祭りの練習に、兄の先輩がまだ一歳にもならない末っ子を連れて来たらしい。兄は子供が大好きだから、その子をそれは可愛がったことだろう。きっとその時の夢を見ているのだ。 「んー、ムチムチなおててだぁ。お前はほんとに可愛いなぁー、ちゅーしちゃう」  えっ、まさかの変質者。ちゅーしちゃうとか、よその子に言います? いけない変質者だこれは。あー、ちょっとこれは僕でも傷付くなぁ。いくら僕といいことをするのを禁じられたからといって、そっち方面にいってしまうとは。 「可愛い、ちょう可愛い。ひーとーみぃー」 「あ……」  思わず僕は声を出してしまった。よその赤ちゃんの夢を見ているのではなかったのか。夢の中で兄は、成長した仁美と遊んでいるようだ。  僕は兄を起こさないよう、そーっとタオルケットをかけてあげた。良い夢が長く続きますように。うーん、でも。仁美の夢って、なんだか兄は疲れ過ぎて意識が三途の川の岸辺まで行っちゃったみたいで、ちょっと怖い。  兄はまた寝返りを打ちタオルケットをしっかりと身体に巻つけた。そしてミノムシみたいな格好でゴロゴロと左右に転がりだした。 「わーってるんだよぉ。これが夢だっていうのはよう。なぁ、夢なんだよなぁ。あー」  今日は一段とリアルに喋るなぁ。 「ごめんな、仁美。俺が不甲斐ないせいで、ごめんな……」  兄はくすんくすんと鼻を鳴らした。今度はさっきみたいに笑っているわけではない。  やっぱり起こしてあげよう。僕は兄の横に膝をつき、手を兄の二の腕に置いた。揺する前に、兄は自分で仰向けになった。 「お兄さん」  ふわりと兄の匂いが香る。僕は吸い寄せられるように兄の唇に唇を重ねようとした。ところが唇と唇の触れ合う瞬間、兄はパチッと目を開けた。 「あ゛ーーーっ!!」  僕と兄とあと二階に上がってきた父の汚ない絶叫の三重奏が、辺りに響き渡った。       (おわり)

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