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「こんな証明書作っておいて何言ってるんだよ」
「それは…、君の力を借りたいのは本当だけどさ。
さっきはマコ君の前だから言えなかったけど、何かあった時に、うちの会社がすぐ動けたら良いと思ってさ。マコ君に何かあっても、探偵社に居れば対応も早いし、うちの技術でどうにか出来るかもしれない。君だって楽に会社に出入り出来た方が良いだろ?」
確かにそうかもしれない、と思うが、ただ気がかりもあった。
「…始さんはそれで良いのか?何が起きるか分からないのに。社員だって居るし」
暁孝の気遣うような視線に、始はそっと笑み心持ち胸を張った。
「妖からの評判は良くないけど、うちの社員だって、妖とより良い関係を作りたいと思ってるんだよ。そんな人間の集まりだから、いつだって覚悟を持ってるし、逆に使命感が働くかもね。それに、イブキ様には押しつけられるようにして頼まれたわけだから、どのみちやるしかない。断れないなら、妖関係でトップのうちが動くしかないでしょ?
それにさ、キラキラの眼差しで、働きたいって言われて断れる?何か役割があれば、マコ君の気も紛れるかもしれないし」
「智の事はなんで黙ってた」
「それは、健気な智哉君を応援したいじゃない」
「……」
眉を寄せる暁孝に、始は、ごめん!と頭を下げた。
「でも、考えたんだ、君達を守るなら、うちに引き込んだ方が安全だって」
確かに、妖には毎日のように来られて困っていたし、妖の事を分かっている探偵社の中に居るのは、安全かもしれない。
それに、なんだかんだ始が自分達を気にかけてくれているのは、暁孝も分かっている。今回だって、きっと色々と頭を悩ませながら考えてくれたのだろう。それは、感謝でしかない。
「…謝るなよ。そういう事なら、こっちからもよろしく頼む…だからといって、全部許した訳じゃないからな!」
「分かってるって」
ニコニコ笑っている顔がいまいち信用出来ないが、暁孝は一つ息を吐いた。
「でも、始さんには感謝してるんだ。自分の事が少し知れた気がして、じーさんにも会えた気がしたし…生まれ変わりはやっぱりよく分からないが」
「…そっか」
どこかすっきりした様な表情を浮かべる暁孝に、始は少し安堵した様子だ。
「うちの会社がフォローするから、こっちで何かあったらすぐ呼んで」
「あぁ、分かった。ありがとう」
そこへ、再びインターホンが鳴った。客かと首を傾げて思い至る。今日はハウスキーパーの芳枝が来る日だった。
暁孝は慌てた様子で、とりあえずマコとリンには物音を立てないように頼み、いつも通りを装って、芳枝を迎え入れた。
「あら、今日はお客様が御出で…ふふ、可愛らしいお友達がいらっしゃるんですね、」
お菓子でも持ってくれば良かったわ、と微笑む芳枝に、一同はぽかんとした。始はどう見ても可愛らしいお友達ではない。
「よ、芳枝さん!この子達のこと、見えるの…?」
「もう、何言ってるの智哉さん…、あ!何かのゲーム中だったかしら、お化けになるゲーム?もうやだ、気づかなくてごめんなさいね」
「だめだわ、私ったら」と、困って笑う芳枝に、皆は顔を見合せた。それから芳枝は、再びごめんなさいねと謝りながら、マコとリンに自己紹介を済ませると、暁孝の許可を得て、いつものように家事に取りかかっていく。
手際よく掃除を始めていくその様子を物珍しそうに眺めるマコとリンの傍ら、智哉はこっそりと暁孝に耳打ちした。
「ど、どういう事?」
「…芳枝さんて見える人だったんだな」
「でも、妖だと思ってないんじゃない?そんな事あるの…?」
「おっとりしてる人だからな…」
真相は分からないが、とりあえず親戚の子を預かっていることにしよう、と、こっそり相談し合う暁孝と智哉の元に、猫又のシロがやって来た。芳枝がベランダの戸を開けたので入れたのだろう。
「ヨシエは見えてるぞ、僕の事も普通の猫だと思って、たまにおやつをくれる」
「そういう事は早く言ってくれ」
「だって聞かれないからさ」
正直、シロの事は気にも留めていなかった。いつも突然現れては、気づいたら居なくなっているから。
「お二人は兄弟?その衣装はお母さんが作ったの?本物みたいねぇ!キツネさんと、カラス…?あ、違うわね…、堕天使かしら…!」
芳枝からの質問を受け、マコとリンは顔を見合せ固まっている。
「そ、そうそう!えっと、お芝居の衣装なんだよね!さっきのも、芝居のワンシーンでさ!」
「お芝居?凄いわねぇ!どんなお話なの?」
「ど、どんな話だったかな~?この二人は、姿が見えなくて、え~っとね、」
マコとリンの代わりに答えていた智哉だったが、咄嗟にいい返しが見つからず、笑顔を貼り付けながら暁孝へ視線を向けた。智哉から助けを求められ、暁孝は溜め息を吐きつつも皆の元へ向かった。
「ところで、新参者かい?」
その様子を眺めながら、シロが始に尋ねた。
ふよふよと長い尻尾を揺らしながら、マコとリンを見つめている。まるで品定めしているかのような視線に、始はシロの傍らにしゃがみ込んだ。
「シロ君は何か感じる?あの子から」
「いいや、ただ…」
ふとシロは口元を緩めた。その瞳には、困った様子ながらも智哉と笑い合う暁孝が映っている。
「…なんとも賑やかな家になりそうだね」
ふふ、と笑い、胸の内で、ギイチさん、と呟く。シロが見つめた暁孝の表情は、どこか緩く柔らかい。
きっと大丈夫だ、心配する事ないよ、と語り掛けた声は、きっと義一にも届いただろう。
暁孝達の新しい日々は、始まったばかりだ。
終
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